米英的思想の排撃ということが、盛んに叫ばれているが、およそ文学に関する限り、昔から米英的思想の影響など受けたことは、皆無といってよいのである。日本の文壇は、昔から米英嫌いである。嫌いであるというより、米国や英国の文学を認めていないのである。
日本の文壇は、最も多くトルストイ、ドストエフスキー、チェホフなどロシア文学の影響を受けた。文壇が、過去において、最も早く左傾したのも、実にそのためである。
それについでは、北欧文学やフランス文学の影響を受けた。英文学などは、現代の日本文学にほとんど何の交渉もないといっていいくらいてある。バーナード・ショーなどは、相当日本にも紹介され、自分なども愛読したが、彼は自らアイルランド人であると称し、その文学は反英国的である。
米国の文学などは、その水準において、世界の二流文学である。
出典:菊池寛,『話の屑籠』,昭和17年7月続きを読む