2006年05月07日

内閣改造の意味を深読みする――前置き。

地方選での大敗を受けて、ブレアは内閣を改造した。これがもう、サプライズ人事。

新しい内閣のみなさんの一覧:
http://news.bbc.co.uk/1/shared/spl/hi/guides/456900/456937/html/nn1page1.stm

地方選の直前に、労働党には2つの大きな問題が浮上していた。1つはプレスコット副首相の不倫、もう1つは重犯罪を犯した外国籍の者を強制送還すべきところ、強制送還の手続きが行なわれぬまま出所させていたという問題で、こちらはクラーク内相。

投票日の英メディアは、プレスコットは間違いなくクビだろう、という観測だったのだが、実際にはプレスコットは留任(ただし権限を大幅に削られた)。クラークはクビで、後任に国防相だったジョン・リード。前々から多くの問題にさらされてきた「若手女性政治家@30代」のケリー教育大臣もクビ(→機会均等大臣に)。この辺は、まあわかる。(ジョン・リード内相は意外だけども。)

最大のサプライズは外務大臣だ。ジャック・ストローが外務大臣の職を解かれた。(「職を解かれた」という表現がぴったり正確であるかどうか、やや疑問だが、そういうことだと判断している。)

Clarke is fired in Cabinet purge
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/4975938.stm
The prime minister is trying to regain momentum after one of the worst local election results in Labour's history.
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Mr Clarke will be replaced by Defence Secretary John Reid. Margaret Beckett is the new foreign secretary, with Jack Straw becoming Commons leader.
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John Prescott will stay as deputy prime minister but lose his department. Trade Secretary Alan Johnson gets education.
ジャック・ストローという人は、元々は人種問題などの分野で活動する弁護士だった。その後政治家の法律アドバイザーを経て政界入りした。本名はジョン・ウィテカー・ストロー。ジャック・ストローという名前は、本名を愛称にした形ではあるが、英国(あるいはイングランド)の14世紀の農民一揆の指導者のひとり(日本の高校では「ワット・タイラーの乱」と習う一揆。ワット・タイラーとジョン・ボールとジャック・ストローの3人がリーダーだった)と同じである。

1997年の総選挙で労働党が大勝して発足したブレアの内閣では内相となった。内相時代に、北アイルランドでの和平合意があって、The Terrorism Act 2000が整備された。

2001年の総選挙後に、昨年急死したロビン・クックに代わって外相となる。数ヶ月もしないうちに、アメリカでの9−11があった。その後のアフガニスタン爆撃も、またイラク戦争も、ストローは外相として対処した。

http://en.wikipedia.org/wiki/Jack_Straw_%28politician%29

私はアフガニスタン爆撃の後から、このジャック・ストローという人の弁論術にかなり興味を抱いて、BBCやガーディアンでこの人の演説が紹介されるとよく精読していた。「術」として見事だと思った。

たとえば、ぜんぜん的確な例ではないが、2003年2月の国連安保理、ラム爺から「古いヨーロッパ」呼ばわりされていたフランスのド=ヴィルパン外相(当時)が「古い国ですが何か」と立ったとき、ストロー外相はそれを3倍くらいにして返した――「うちも古い国ですけど、しかもフランスに作られた国ですけど何か」と。(当時のメモ。)

2004年3月にハマスのヤシン師がミサイルで爆殺されたときには、非常に強い言葉でイスラエルを非難している。(ほとんど関係のない話だが、ジャック・ストローのおじいさんはジューイッシュで、そのことである議員が物議をかもしたことがある。この問題には極めて敏感なデイリー・テレグラフの報道から始まった件。)

ジャック・ストローは、端的にいえば、米英によるイラク戦争に賛成する立場ではなかった。(Downing Street Memoこんなメモとかこんなメモとか参照。また、小林恭子さんのブログの2005年6月30日記事に、このことが端的に書かれている。)

それゆえに英国は国連決議採択を目指したのだが(つまりストローは、「攻撃すること」に反対だったのではない。「国連のお墨付きのない形で攻撃をすること」に反対だったのだ)、最終的には、国連決議は採択されそうにもなかった。

そのあたりのことは、昨年6月15日配信の「TUP速報」、「『ダウニングストリート・メモ』への応答を求めるブッシュ大統領への手紙
と、大統領弾劾をとの米国民への檄」に詳しい。
http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/558

簡単にまとめてしまうと、決議1441(2002年11月8日)によって、決議687(1991年4月3日)が復活した、これで新たな決議なしでも武力行使できる、という理屈を英国はつけた。日本政府もそれを丸呑みした。(これに際し、日本政府はこの決議と国連決議678、1441を挙げて新たな決議なしでも武力行使をすることが可能だと論じた。この見解は3月17日、当時の小泉純一郎首相、川口順子外相(参議院予算委員会)などによって表明された。

2005年5月の総選挙前にBBCのインタビューで、ストロー外相はこのことを次のように語っている。
The advice which the attorney general set out in the answer which he gave to the House of Lords on 17 March - the day before the key debate in the House Commons - was unequivocal and it set out that Resolution 1441 had effectively revived the authority for use of force under Security Council resolution 687 because of Iraq's clear further material breach in its refusal to comply with its disarmament obligations.

※このインタビューは全文読むことをおすすめする。黙読でもいいが、適宜音読すれば、ストローがいかに苦しいかがもっとよくわかる。

で、昨年の総選挙では保守党はなんだかなーだしLibDemは政権を取れるほどでもないから結局は労働党だろうという観測があり、それでも内閣はずいぶん入れ替わるんじゃないかということが言われていて、ジャック・ストロー外相は選挙前にジャーナリストにぼこぼこにされているから、もうもたないんじゃないか、という観測があった。でも結局、ストローは留任していた。

多分「ブレアが退くまで外相はストロー」ってことになってるんじゃないのかな、とさえ思った。

そこにきて、地方選挙で大敗という、外交とは関係のなさそうな(何しろ地方議会なんだから)ところでの事象を受けた内閣改造で、外交担当のストロー外相がクビになったのである。

サプライズ以外の何ものでもない。

新たに外相になったマーガレット・ベケットは、ベテランの政治家だが、外相のポストに女性というのは英国初だそうだ。この人事は「初の女性外相、ブレア政権はフレッシュなリスタート」を印象付けるためではないかという話もあるが、うーん、どうだろう。

イラク戦争でぼろぼろになった(国際舞台ではもう明らかに耐えられない)外相をお取替えしたことの意味は、「フレッシュなリスタート」なんてもんじゃないんじゃなかろうか。

直感的に私が思ったのは、「これは、イランに対する武力行使が始まるサインじゃないか」ということである。

日本の外務省やシンクタンクがこれをどう分析しているかに興味があるなあ。

ちなみに今後、ジャック・ストローはLeader of the House of Commons(下院院内総務)となる。外相→下院院内総務という道は、昨年急死したロビン・クックと同じだ。(だから何ってわけじゃないのですが。)
posted by nofrills at 15:50| todays_news_from_uk/reshuffle2006 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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