2006年05月08日

「ストロー解任」で海の向こうがプロパガンダ大会。

うはー。英国も「ブレア・ブラウン劇場」で大変な騒ぎだけど、海の向こう(<英国を基準に)は別の意味で大変な騒ぎになってますなー。具体的にはイランとアメリカ。

まずイラン、次にアメリカといきます。

※ちなみに、この記事のベースを書いたのは8日の夜中(日付上は9日)。投稿できる状態にできたのが9日の夜。で、その間に、特にアメリカでの報道に関するニュース記事が、続々出てきています。■イラン:
イランのFarsnews英語版は、2006年5月7日付けで、Straw Resigned for Opposing Iran Invasioncache)というタイトルで次のような記事を出している。


TEHRAN (Fars News Agency)- Guardian revealed that the opposition of British Foreign Secretary Jacks Straw to a military action against Tehran caused him to resign.
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The London-based daily Guardian in its Sunday edition wrote: Straw had repeatedly said that carrying out a military operation against Iran was unimaginable and the reports that US President George W. Bush is considering a military option against Iran's nuclear facilities is nonsense.
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According to Guardian, Straw had kept opposing the military option to the point that he announced he would resign if a military action against Iran became a reality.
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...

※最後省略したのは、今回の内閣改造についての説明の部分。


こ、これは・・・(^^;)

最初のパラグラフの中、the opposition of British Foreign Secretary Jacks Straw to a military action against Tehran caused him to resign.(テヘランに対する軍事行動への反対によりジャック・ストロー外相が辞任した)という箇所。これは誤読か言語的な間違いじゃなければ、うそかプロパガンダです。

※ここのほかは、表現の書き換えはあるけど(だから元の英語からそのまま英語記事を書いたのではなく、一度ペルシャ語を経由してると思うんだよね。なので言語的な間違いの可能性は除外できない)、元記事@ガーディアンと並べてみても、情報としての間違いはない。

ええと、ストローはresignしたのではなく、get demoted/axedしたんです。「辞めた」のではなく「切られた」。

確認。Guardian in its Sunday editionといえばSunday May 7, 2006ですが(ガーディアンじゃなくObserverの日)、ガーディアンのサイト検索機能を使って、「Straw resign」で検索して、この日付を探してみてください。

「ストローが辞めた」なんて記事ないから。「ストローが切られた」はあるけど。

Farsnewsが日付を間違った可能性もあるので(Observerと書いてないし)、ガーディアンで検索対象を金曜日、土曜日にも広げて確認してみてください。

「ストローが辞めた」なんて記事ないから。「ストローが切られた」はあるけど。

「イランへの爆撃に反対した外務大臣」が「辞めた」と言うことが言語的な間違いや誤読でないとして、その意味はおそらく、「イランへの爆撃に反対したら外務大臣ではいられなくなる英国」ということだろう。

それから、he announced he would resign if a military action against Iran became a realityの部分、これは調査中。私もイランについてのストロー発言を全部フォローするほどのことはしていないので、そういう発言があったのかなかったかがわからないのだけど、とりあえず、見た記憶はないです。

ただ、would have resignedというような発言なら過去にあったかもしれないし(→ありました、ガーディアン、April 26, 2003、ただし文脈がまったく違うんですが)、それと混同している可能性もなくはない。would have resignedでさくっとガーディアンのサイト検索で探しても出てこないけど、これは表現がいろいろあるから(should have resigned, would have caused resignation, might have led to his resignation, あと時制の問題でwould resignになってるなど)、探しきれていない可能性が高いです。(→ありました。上参照。)

しかしテヘランも、どうせ英字紙で食いつくんなら、次の「ホワイトハウスからの電話でクビになった」に食いつけばいいのに。。。(私は完全に野次馬になっている。)

■アメリカ:
米CBSがDid Bush Force British Minister Out?という記事を出してます。

概要としては、「イランに対する核の使用に反対するストロー外相についての苦情をブッシュ大統領が英国に入れたことが、ストロー外相解任の原因――ロンドンのインディペンデントとガーディアンの2紙は、この週末、こんなふうに伝えた」。「2紙とも、ホワイトハウスからブレア首相への電話で、ストロー外相の『運命は定められた/封印をほどこされた (fate is sealed)』と書いている」。

つまり、「米国(ブッシュ)があいつを何とかしろと電話したので、英国(ブレア)がはいはいと動いた」という報道を、インディペンデントとガーディアンがしている、と。

まず「アメリカが電話したから」についてですけど、うーん。ブレアはそこまでプードル(<懐かしい)じゃないでしょ。ブレア自身がイラン攻撃に向かうのにストローは邪魔だったってことでしょ。(ブレアを「プードル」扱いすることは、ブレアを過小評価することによって彼のアカウンタビリティを不問に付すことだ。)

ともあれ、まずはとにかく原テクストを見ないことには……。

インディペンデントを早速見てみたら、あるある、こんなタイトルで――The Washington connection: Did Bush stick the knife into Jack Straw?(Published: 07 May 2006, By Francis Elliott)。

こういうこと言うとインディペンデントが好きな方は気分を害されるかもしれないけど、私はこの新聞は基本的に「他紙があんまりやらないことをやって、なおかつ売れてナンボ」の戦略で編集方針が立てられてると思っているので(むろんそれが絶対的に悪いということではない)、この記事タイトルは、私の変な笑いのツボにはまりすぎです。「陰謀論」かもしれないが……と思わせるこのタイトル、あまりに雰囲気が出ていて、ついつい買ってしまいそう。

で、肝心の記事の中身が:
Jack Straw's fate was sealed in a phone call from the White House to Tony Blair last month, according to the former foreign secretary's friends.
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They say President George Bush was furious that Mr Straw said it was "nuts" to use nuclear weapons against Iran, an option reported to be under active consideration in Washington.


という具合です。うはー。情報源がfriendsっていうのはかなり珍しい(allyとかaideとかではないのね、って感じ)。で、「nuts」と言われてGWBがfurious、と。で、そんな奴はクビにしてしまえ、と。で、はいそうですねとクビにした、と。

いくらなんでも。。。

だいたい、この「nuts発言」、原テクスト(BBCの番組)が正確に伝えられてないんだよね。これは丁寧に見ないといけないんで別記事立てますが(こうやってどんどん増えていく)、ストローが「nuts」と言ったのは「核を使うなんていう報道はnutsだ」という文脈にしか読めないんだよね、私には。「核を使うのはnutsだ」ではなく。

→とりあえず、元の発言の書き起こし(2006年4月9日):
http://www.britainusa.com/sections/...
でもインディペンデント記事の「陰謀論」めいた「怪しい情報」はこのつかみの部分だけで、あとはふつうに興味深い。実際、BBCでは読めない内容でけっこうおすすめの記事です。結びはまた下世話に「劇場」を予感させるんだけど。(またもや、野次馬にはたまらない。)

一方のガーディアンですが――これか、こっちのエントリでも紹介したユアン・マカスキルが書いた別の記事、The two crucial mistakes that cost Straw his job(Saturday May 6, 2006)。

で、この記事、読んでるんですけど、「ホワイトハウスからの電話」ってのが、私、まったく印象に残っていなかったんですね。単にナナメ読みだからかもしれないのですが。つーか読み方が雑なんだ。

その部分を引用:
Jack Straw made two crucial mistakes in his dealings with Tony Blair: one involved the prime minister's relationship with Gordon Brown and the other Iran. Mr Straw has said repeatedly that it is "inconceivable" that there will be a military strike on Iran and last month dismissed as "nuts" a report that George Bush was keeping on the table the option of using tactical nuclear weapons against Tehran's nuclear plants.
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But Mr Blair, who sees Iran as the world's biggest threat, does not agree with his former foreign secretary. The prime minister argues that, at the very least, nothing should be ruled out in order to keep Iran guessing. Downing Street phoned the Foreign Office several times to suggest Mr Straw stop going on the BBC Today programme and ruling it out so categorically.
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His fate was sealed when the White House called Mr Blair and asked why the foreign secretary kept saying these things. In any case, Mr Straw had boxed himself in on Iran to the extent that he would have had to resign if a military strike became a reality.

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ジャック・ストローはトニー・ブレアと渡り合う上で、2つの非常に重大な過ちを犯した。1つは首相とゴードン・ブラウンの関係に関わったこと、もう1つはイランである。ストロー氏はイランに対する軍事攻撃は「考えられない」と何度も発言し、先月にはジョージ・ブッシュがテヘランの核工場に対し戦略核兵器を用いるという選択を考えているという報道のことを「きちがい沙汰」と一蹴していた。
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一方でブレア首相は、イランのことを世界で最大の脅威と見なしており、ストロー外相とは意見を異にしている。首相は、イランをguessさせておくためには、少なくとも何事も可能性から除外すべきではないと主張する。首相官邸は何度か外務省に電話をかけ、ストロー外相はBBCのToday(ラジオの政治インタビュー/討論番組)に出演して、その可能性を全否定することはやめるようにと話した。
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彼(ストロー)の運命は、ホワイトハウスがブレア首相に電話をし、なぜ外務大臣がそのようなことを言い続けるのかと問うたときに、固まった。


この流れか。。。うっかりスルーしちゃうはずだ。(言い訳)

私の印象に残ったのは「なるほど、ストローは、よりによってBBCのTodayを利用していたのか」ということでした。(この番組は、「45分説」のdodgy dossierの件、つまり国防相顧問のドクター・ケリーが「自殺体」で発見され、ハットン・インクワイアリという独立司法調査委員会が開かれ、イラク戦争についての英国政府のあんなことやこんなことが暴かれそうになった一連の出来事の、きっかけとなった番組。)

今後は記事はもうちょっと慎重に読もう。(教訓)

ちなみに、引用した部分のすぐあとは、ストローとゴードン・ブラウンとの関係について。(ブラウン対ブレアにはこういう因縁がある。野次馬にはとても気になる。)

さて、CBSはこのことを書いているわけだが、あえて「インディペンデントとガーディアンが」とアメリカのメディアが言う意味が実際どうなのかはわからないけど、受け取る方はおそらく「また、“リベラル”の新聞か」と思うでしょう。どっちもアメリカでは「リベラル」で知られてるから(<イラク人ブログのコメント欄での経験が根拠)。(ところで、私はこの「リベラル」は米語だと思っている。どっかUK用法と違う。。。ていう問題じゃないのかも。)

CBSがそういうつもりでやったんだろうとそうじゃなかろうと、実際はどうでもいい。

あんまり時間がないので乱暴に書くけど、ともかく、少なくともこのCBS記事を書いた人は、イラン攻撃を全面的に否定するような英国の外務大臣はイラネって思ってるっていうことと、インディペンデントやガーディアンは好きじゃないってことは、わかった。

それと、CBS記事内の記述、
Straw played a key role in more than two years of talks between Tehran and the European trio of Britain, France and Germany aimed at resolving the standoff over Iran's nuclear program. Negotiations broke down earlier this year when Iran said it was resuming its uranium enrichment activities.

から見ると、「武力行使を避けるための交渉が失敗したのはストローの責任」といえる状況が作れてるってことにもなってるよね。おそろしい。

だらだら続くけど、もう気になるところをちょっと抜粋しておこう。箇条書きにします。

- Straw, 59, regularly described military action against Tehran as "inconceivable," a word neither Blair nor U.S. leaders would use.
_
- Straw said Britain would not launch a pre-emptive strike on Iran and he was as "certain as he could be" that neither would the United States. He said he has a high suspicion that Iran is developing a civil nuclear capability that in turn could be used for nuclear weapons, but there is "no smoking gun" to prove it and rationalize abandoning the plodding diplomatic process.


Straw said Britain would not launch a pre-emptive strike on Iranってすごい書き方だよね。

ストローが言おうが誰が言おうが、pre-emptive strikeなんてもの、launchしねぇだろ、国連憲章あるんだから。

「証拠がない」なんてのもストローが言おうが誰が言おうが、であって、そんなことを書く意味がわからない。

ともあれ、イラン戦争は近づいたってことだ。くそ。

あ、もう1箇所。
He played a central role in making the case for war in Iraq and has struggled since to help stabilize the country. But he privately questioned whether the U.S.-led invasion was wise, according to the so-called "Downing Street memos" leaked last year.


whether the U.S.-led invasion was wiseってのはDSM原文 (25 March 2002)にはない。多分、原文でのWe have also to answer the big question - what will this action achieve?という箇所を、このCBS記事を書いた人がパラフレーズしたんだろう。そしてこのwiseの使い方、これはもう言語学的に、狂っていると思う。

2002年3月のストローは、ブレアに対し、wiseかどうかを訊いたのではない。法に照らして、攻撃をすべきかどうかを真剣に考えるべきだと意見しているのだ。(ストローも法律家だが、ブレアも法律家。どちらもバリスターの資格を有する。ストローは既に意志を固めていたブレアに対し、「クロフォードを訪問してもほとんど意味はない。なぜならアメリカの考えていることはほにゃららであり、それは法的にまったくダメダメだから」というディベートを、このメモで仕掛けている。この後、あのとんでもない理屈が考案されてゆく。)

昨年、DSMのストローのメモが明らかになったときにすぐに読んだ。このときに愕然としたのは、2002年3月にここまで考えていた人が、2003年2月にはあんなふうに「イラク攻撃は法的に正しい」と主張できたという事実だ。

南アジアの英語メディアの記事もざーーっと見たところ、今回の事態でストローのことを「悲劇のヒーロー」みたいに扱っているような雰囲気すら感じられるんだけど、それはおかしなことだ。ストローは本気であれが国連憲章のもとで違法であるとは考えてなかった。ただのディベイターだ。本気でそう考えてたんなら、いけしゃあしゃあと「正当なものですよ、1991年の決議が再び有効になったんですから」とは言えないはずだ。

今後、ジャック・ストローが「反戦のヒーロー」に祭り上げられていくことは、警戒しておかないといけないかもね。

なお、私は今回の事態は、単に英国の労働党内の政争だと思います。米国の圧力とか関係なく。

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そうそう、忘れないようにメモ。USAでのCIA長官の電撃的な辞任劇は、ストロー更迭とほぼ同時。(下院院内総務は格は決して低くないので「更迭」とは言わないかもしれないが、事実上は。)
CIA boss in surprise resignation
Last Updated: Saturday, 6 May 2006, 03:48 GMT 04:48 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4978776.stm
posted by nofrills at 23:50| todays_news_from_uk/reshuffle2006 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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