Japan boss angry at match timings
Last Updated: Sunday, 18 June 2006, 15:43 GMT 16:43 UK
http://news.bbc.co.uk/sport1/hi/football/world_cup_2006/teams/japan/5044540.stm
ジーコは、2戦連続で午後3時からの酷暑の中での試合となり、1勝1分となったあとで、「日本でのテレビの放送の都合でこういう時間にプレイしている」ということを述べた、というBBCの報道だ。(ただしこの会見でジーコが述べたことの中心は、そのことではない。後述。)
このBBC記事、日本のネット&ウェブログ界隈では「ジーコが電通を批判したことを、あのBBCが伝えた」となって、「あのBBCが伝えているのに日本のマスコミはスルー」という感じで、「すべての裏に電通が」という「陰謀論」の様相を呈してきた。何でそうなるの??
私の中のこの違和感は何か。
神保哲生さんのウェブログでは、ジーコがこの発言をした共同インタビューについて、「なぜか日本の通訳(テレビ朝日)はその部分だけ訳しませんでした」とあるが、はてブでは「通訳されていたような気がする」というコメントがあり、そして何より、私はそのテレビ放送を見ていないので(見てればよかった!)、通訳者さんがそれをスルーしたかどうかはまったくわからない。というわけで、日本のテレビがその発言を伝えたのか伝えてないのかはわからない。
以下はBBCのこの記事についてだけ、書いてみる。これだけではこの件については十分ではないけれども、それ自体、やっておかないといけないと思わされるから。
私はこのBBC記事が出てわりとすぐ(19日の午前1時ごろかな)にRSSリーダーからこの記事を読みに行って拾い読みだけした。で、「ベッカム様」も初戦(現地で午後3時スタートで、イングランドは後半まったく動いてなかった)のあと、ひたすら「すげー暑い、ピッチ暑すぎ、とにかく暑い」といった発言をしていたし(イングランド以外にも「暑さ」についてコメントしていたチームあるいはプレイヤーがいたと思う)、やっぱ今年のドイツは暑さが尋常じゃないんだなぁ、プレイヤーには過酷だよなぁ、怪我人出たらよくないよなぁ、と思った。それだけだった。
あとでもう一度読み直したが、イングランド(<英国)的には、「暑さは言い訳にならん、単に勝つだけじゃなくて、もうちょっとましなプレイをしろ!」というサポからイングランド・ナショナル・チームへの怒りの声に対し、「だってあのクソ暑い日本のチームもバテバテになるほどの暑さなんだよ、ほら、日本のジーコもそう言ってる」と言いたいんじゃないか。。。(^^;)(すいません、私の頭はこういうふうなのです。)
フザけていないで真面目になると、ワールドカップの試合日程が「政治力」次第だということは、確か98年(フランス大会)でも言われて。BBCには、そのこと自体を問題視する意識はあるのかもしれない。いわゆる「商業主義的」な側面の裏側に何が、という意識。BBCはそういうところはけっこうガチガチ行く。(SKYとかにお株を完全に奪われたくはないから。)
というわけで、要するに、BBCが英国の、というかイングランドのメディアだということを度外視して、何か、ただ単に「権威あるメディア」みたいに扱うのもどーよ、って感じなんだけど。
念のため、そもそもの発端となった「BBC記事」の中身を丁寧に見ておく必要はあるかもね。
以下、BBC記事のパラグラフごとの内容を日本語で。なお、記事中のジーコの発言は、ポルトガル語→英語とワンクッション置いたもので、英語がどこまで「正確」なのかは判断できない。
(厳密な意味での「翻訳」はしていませんが、内容は取りこぼさないようにします。)
第1パラグラフ:
日本のジーコ監督は、暑い中、2度連続で試合を行ったあと、ワールドカップの組織者(World Cup organisers)を批判した。
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第2パラグラフ:
クロアチア戦を0−0で引き分けた日本は、グループリーグの最終戦でブラジルに勝たなければ、ベスト16に進むことができない。
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第3パラグラフ:
「もう1度この暑さの中でプレイしなければならなかったとは、犯罪だ」とジーコは述べた。
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第4パラグラフ:
「前の試合も午後3時だった(was:過去形)が、彼ら(they)はテレビに適するようにそうしたがっている(want:現在形)。ビジネスはビジネスということだろう。」
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第5パラグラフ:
続けてジーコは次のようにも述べた。「後半は、今ひとつ、どうしたらいいのかがはっきりしていなかった。」
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第6パラグラフ:
「けれどもこれですべてが終わったわけではない。私たちはまだ生きているし呼吸している。生き残るためにできることはすべてしていく。」
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第7パラグラフ:
ジーコは、スルナのPKを止めたGK川口のプレイぶりについては、もっと賞賛していた(more complimentary:意訳するなら「口が滑らかだった」)。
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第8パラグラフ:
「うちのキーパーはすばらしかった、美しくセーヴした。」
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第9パラグラフ:
「クロアチアの選手のキックがまずかったわけではない。あれはうちのキーパーのファインプレイだ。」
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第10パラグラフ:
またジーコは、日本がチャンスを作っても結果に結びつけることができないことにはフラストレーションを感じている、とも語った。
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第11パラグラフ:
ストライカーの柳沢は、4ヤードの位置からのシュートを外し、この試合での最高のチャンスを逃した。(ここでBBC記者はYanagisawa was guilty of missing ...という表現を用いている。)
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第12パラグラフ:
「ゴール前にプレイヤーが来る、得点を決めなければならない場面では、プレッシャーがかかって選手はテンパってしまう」とジーコは述べた。
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第13パラグラフ:
「誰もがゴールを決めることができるわけではない。日本はもう少しというところだった。ゴールの正面にいたのだが、ボールを入れることができなかった。」
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第14パラグラフ:
しかしながらフォワードの高原は、まだベスト16へのチャンスはあると考えている。……以下、第15〜16パラグラフは高原のコメントの英訳で、「ジーコが批判」には関係のない内容なのでカット。
このBBCのライティング。
会見でジーコはいろんなことを述べた。いわく「今日の川口は本当にすばらしかった」(この点についてはかなりアッパーな調子で喋ったということは、記者のmore complimentaryという表現から明らかだ)、「ドローという結果だったが、まだ終わったわけではない」など。
また、第12パラ(柳沢のミスについての部分)では、ジーコは基本的に、「ヤナギが外したのにも理由はある」と言っている。これは「かばっている」とも取れる発言で、あの試合を見た上でこれを読んだ英国のフットボール・ファンは、はっきり言えば失笑するだろうし、記者もある程度はそれを狙ってこの記事を書いていると私は思う。(ここではBBCのこの記述を読むだけなので、その他のメディアの記事がどういうふうに書かれているかはスルーする。本当は比較対照したいところだが。)
その中で、何らかのきっかけがあったのかもしれない(なかったかもしれない)が――つまり、記者から「大変な暑さで2戦連戦で勝ち点1ですが」と訊かれたのかもしれない(訊かれなかったかもしれない)が――「2戦連続でこの暑さの中での試合だ」ということを語った。
ここでジーコでなかったら「条件は相手も同じだ。我々はベストを尽くすだけだ」という優等生回答をして流したかもしれない。でもジーコは「それはW杯のオーガナイザーがそういう日程を組んだからだ、テレビがあるからね」と語った。しかもいつもの真顔で。
で、それをBBCは、「ジーコはオーガナイザーを批判した」と書いた。「批判した」と書いたのはBBCであって、ジーコが「私は〜を批判する」と言ったわけではない。(多分、ジーコはものすごく「いい人」だ。でもメディアへの対応がヘタだなあと思うよ。食いついたのはBBCだけだとしても、「ミスを天気のせいにする指揮官」として嘲笑されていたとしてもおかしくない発言だ。まあ、それがジーコだから嘲笑されていないだけで、これがフランスの監督だったりしたらどうなってることやら。。。)
この記事でなくても、こういうシリアスではない内容の記事は、どっからどこまでが「ほんと」なのか、どっからどこまでが「ウケ狙い」なのか、あるいは「記者の本心」なのか、といったことが非常にわかりづらい。
しかしこれが、単に「BBCの報道である」というだけで、まったくの額面どおりに受け取られているんだとすれば、私は頭が痛いです。
はっきり書いておきます。BBCは絶対的権威なんかじゃない。「あのBBCが」扱いは、したいならすればいいけど、するなら慎重に。極端にいえば、BBCも「東スポ」も、ライティングは基本的に同じ。若い女優がインタビューで「結婚願望」に話を持っていかれて「結婚願望はありますよぉ」、「○○選手ですか、かっこいいですよねぇ、えへへ」と答えたのを、「女優ほにゃらら大胆告白! 結婚するなら○○選手!」とかって書く(<例は架空)、っていうあの流れと、基本的には同じです。
で、それがスポーツ欄に限らないというのが、BBCの厄介なところなんですが。。。いや、BBCに限らずどのメディアでも。
あと、「午後3時は酷暑」について、それが試合日程が決定される過程において予想されていた(暑くてもいい、それよりテレビの都合が大事、と電通がゴリ押しした)のかどうか、ってことも、このBBC記事に乗っかるなら、調べてからにしたほうがいいと思うんで、一応調べてみました。
「ドイツ 平均最高気温」でGoogle検索でトップに出てきたサイトによると、6月はベルリンが21.6度、その他の各都市も大体20〜22度で、中には20度を下回る都市もある(ミュンヘンなど)。
また、阪急旅行のサイトによると、6月の平均最高気温は、ベルリンで22度、フランクフルトで30度。(近年の「やたらと暑い欧州」のデータかもしれないけど、フランクフルトはドイツの熊谷か甲府か。)
これよりももっと詳しいグラフが「星空@ドイツ」さんのコンテンツにあるが、こちらさんのデータは「平均最高気温」じゃなくて「平均気温」で、最も暑い時期に最も気温の高い諸都市でも23〜25度におさまっている。
なお、日本の試合は、初戦がカイザースラウテルン、ここはフランクフルトに近い内陸の街。2戦目はドルトムントで、フランクフルトとハノーファーの中間みたいな位置。
ちなみに、「ベッカム様」が「あぢーよ」とコメントしていたイングランド初戦(対パラグアイ)は、フランクフルトで行われている。そんなところで試合をするはめになったイングランド(暑さには滅法弱い)は気の毒ではあるが、まあ、勝ったから(「ベッカム様」@止まったボール→相手ディフェンスでオウンゴールの1点だけとはいえ)。負けてたら「フランクフルトなんかに試合をブッキングした奴、出て来い」になってただろうか? いやおそらく「得点力のないフォワードなどカス」とか「監督がアホ」とかいった反応になるだろう。
なお、「電通と日本のメディア」(何を報じるか、報じないか)の問題は、また別にあるとは思う。また、BBCは単独会見じゃなくて全記者の共同会見で取材したものをこうまとめたわけだから、「それをほとんど誰も報じないのはなぜか」を問うことはできると思うけど、このネタでそれやるのは、ちょっと厳しいんじゃないでしょーか。
ジーコの発言には「暑くなければ勝てたのか」と返すしかないじゃん。というか、涼しければクロアチア戦での柳沢のミスはなかったのか?(ミスをしたのは柳沢だけではないけど、最も決定的なものとして)って話になっちゃう。となると、ねぇ。。。
「あの彼がゴール真正面で外すんだから、よほどコンディションが悪かったんだな」って思えるプレイヤーは地球全体でもとても数が少なくて、そして、残念ながら彼はそういうプレイヤーの1人ではない。イングランドのランパードとかチェコのネドヴェドのように、打てども打てども……ってのとも違う。初戦の対オーストラリアの試合でも、日本はFWが好機を逸していたよね。(そこでパスか、と思った。)
結局、試合で負けるのはゴールを決めた数が相手より少なかったからなんだけど、それがなぜそうなったのかは簡単に証明はできない。勝つのは「チャンスを殺さなかったから」と説明されるけど、それすら証明にはならない。
つぅか、そもそもジーコへのまっとうな批判すら、この4年間なかったんだけどね、「電通と結びついた大手メディア」には。トルシエが中村を代表から外したときは、あんだけ批判されていたのに。(誰か書いてないかなと思ったら、「眞鍋カヲリを夢見て」さんの23日記事をはてブで見つけた。)
この関連のネット上の記事を、はてブからいくつか。(私自身が、はてブユーザーのコメントも合わせて一覧したいので、あえてはてブのページに。)
http://b.hatena.ne.jp/entry/
http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=434
http://b.hatena.ne.jp/entry/
http://takeyama.jugem.cc/?eid=557
→竹山さんはこの記事のあとで「前号の反響と反省点」という記事を出しておられる。
http://takeyama.jugem.cc/?eid=558
http://b.hatena.ne.jp/entry/
http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2006/06/w00_7fb9.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/
http://www.jimbo.tv/commentary/000272.php
追記:
それから、「日本のメディアが伝えない」のはこの件だけじゃない。例えばJFAのマスコット犬の「ロンメル」について、第二次大戦で枢軸国と戦った連合国のメディアがどう伝えていたか、なんてのもある(このブログの過去記事のどっかにちょこっと書いてある)。何かネタを探すなら、そういうところで探した方がましだと思います。