2003年08月31日

anti-war/pro-war

ブレア政権の情報操作疑惑を表ざたにしたのは,言うまでもなく,ドクター・ケリーの死である。

ドクター・ケリーという人は,生物兵器の専門家で,98年に中断する前の対イラク査察でイラクに行っている。日本でも一部メディアで伝えられたドクター・ケリーの見解は,開戦には慎重という感じだった。記憶違いかもしれないけれど,pro-warという印象は受けなかった。

しかし,実はそうではなかったかもしれない。

今週のObserver(Guardian日曜)にドクター・ケリーが匿名で書いたという論文が掲載された。サダム・フセインを政権から追放すること(regime change)によってしかイラクは武装解除させられないという主張である。
http://observer.guardian.co.uk/politics/story/0,6903,1032773,00.htmlobserver.guardian.co.uk/politics/story/0,6903,1032698,00.htmlによると,件の論文は,武力行使開始の「数週間前(a few weeks before the war)にまとめられたもので,実際論文がIn the past week, Iraq has begun destroying its stock of al-Samoud II missiles, と書き始められていることを見ると,3月初めにまとめられたものと考えられる。

その論文で,筆者(ドクター・ケリー)はthe current threat presented by Iraq militarily is modest(脅威は差し迫ったものではない)としつつ,it has never given up its intent to develop and stockpile such weapons for both military and terrorist use. (イラクは軍隊やテロリストが使えるWMDを開発し保持しようとし続けている)とし,国連の査察がうまくいっていない(The UN has been attempting to disarm Iraq ever since 1991 and has failed to do so.)と述べて,War may now be inevitable. またThe long-term threat, however, remains Iraq's development to military maturity of weapons of mass destruction - something that only regime change will avert.と,武力による政権交替をはからなければ,イラクはWMDを開発し続けるだろうという結論を導いている。

ドクター・ケリーの死後,メディアはドクター・ケリーをある意味で神格化(聖者,殉教者に近いものもあるが)してきた。報道を見聞きする側の先入観とか思いこみもあるが,政府による情報操作という極悪な話と,まじめな科学者としてのドクター・ケリーを横に並べられれば,無意識のうちに(←ここがおそろしいのであるが)「政府に利用された気の毒な科学者」というイメージができあがる。

そして,実はドクター自身が「戦争は不可避」と考えていたということが明らかになったとき,ドクター・ケリーという与えられたシンボルを失ったanti-warの気運は,ほんのちょっとであれあるいはたくさんであれ,沈む。

シンボルを得ること。シンボルを喪うこと。

8月22日のMirrorに掲載されたジョン・ピルジャー記事,NOW WE ARE THE IRAQ EXTREMISTS(ZnetではWho Are The Extremists?益岡賢さんの日本語訳) では,最近の(ドクター・ケリーの死亡以降の)BBCに関して,次のように述べられている。

In the current brawl between the Blair government and the BBC a new myth has emerged: It is that the BBC was and is "anti-war".

最初にこれをMirrorのサイトで目にしたとき,「えっ?BBCが“反戦”?そんなことになってるの?」と思った。現在,BBCが――正確にはBBCのひとりの記者が発端となって,かもしれない――情報操作に関して英国政府と対決していることは本当だけれども,3月と4月のBBCは,明らかにプロパガンダ・マシーンでしかなかった。まあ,堂々とnuke themと主張するメディアほど過激ではなかったけれど,それでもブレアのour boys演説を肯定的に捉えていたことは確か。

BBCもまた,自己演出をしている。

Observerに掲載されたドクター・ケリーの論文も,the current threat presented by Iraq militarily is modestを強調すれば(見出しにするとかして),見え方はまったく違う。

真実はひとつしかないのかもしれない。けれども,真実というものは,それがどう語られるかによって見え方がまったく違う,危ういものでもある。
posted by nofrills at 21:53| todays_news_from_uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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