2004年02月18日

機密漏洩と戦争とひとりの女性。

英国のKatharine Gunという女性が英国政府によって訴えられている。Official Secret Actに違反した,つまり機密情報を漏洩したとのことで。

Katharine Gunが機密を漏らしたのは1年ほど前,国連安保理を舞台に,英米などが態度を決めかねていた理事国(ミドル6と呼ばれていたと記憶している)に対する“働きかけ”を強めていたときのこと。

この件についての最初の記事は,2003年3月2日のthe Observerである。
Revealed: US dirty tricks to win vote on Iraq war
http://observer.guardian.co.uk/iraq/story/
0,12239,905936,00.html
※なお,恥ずかしながら,この件については今日ウェブ上の知人からご教示いただいて知った。教えてくださった方に感謝を。

件のObserver記事には
Details of the aggressive surveillance operation, which involves interception of the home and office telephones and the emails of UN delegates in New York, are revealed in a document leaked to The Observer.

とある。つまり,Observerへの直接のリーク。

リークされたのは,米国の必死の工作活動(dirty tricks)の中身。米NSA(「国家安全保障局」だっけ?諜報機関)のトップからの,「ミドル6」など安全保障理事会理事各国の通信を傍受し(記事にはboth the office and home phones of UN delegation membersとある),各国の動向を知りうる限り逐一知らせるように,との指示を記した覚書(2003年1月31日付け)だった。(この辺りの概略は「暗いニュースリンク」さんの2月16日記事の方がうちよりわかりやすくまとめられていると思います。)

本題から逸れるのだけど,Observer記事で一番笑えるのがここ↓。ObserverがNSAの代表電話に電話をかけて,「Koza氏(NSAのヘッド)につないでください」と言って内線でつながった後のくだり。Koza氏のアシスタントは「Kozaオフィスです」と電話を受けている。:
However, when The Observer asked to talk to Koza about the surveillance of diplomatic missions at the United Nations, it was then told 'You have reached the wrong number'.
_
On protesting that the assistant had just said this was Koza's extension, the assistant repeated that it was an erroneous extension, and hung up.

だが当紙が国連での工作活動の監督についての話を聞きたいと切り出すと,(Kozaオフィスですと言ったそのアシスタントが)「番号をお間違えです」と言い出した。
ついさっきはKozaオフィスだと言ったではないかと食い下がったが,アシスタントは「間違いです」と繰り返して電話を切ってしまった。


……アシスタントは小学生?

うーん,こんなにおもしろい話,読んだらネタにしなかったはずはない。だから私はやっぱり2003年3月にこの記事が出た時点では読んでいない。(<オイ。)

しかしその一方で,当時既に英米の“工作”についてかなりエグいものをいくつか読んでいた記憶はあって,その中にはこの,「NSAによるミドル6の通信傍受疑惑」も含まれていた。ということは,「疑惑」に過ぎなかったものを,当事者NSAの覚書というソースつきで示したのがこの記事ということか。そして,覚書をObserverにリークしたのがKatharine Gunという女性。

彼女は,英GCHQ (Government Communications Headquaters:参考) で通訳をしていた職員で,「職務上知り得た機密を漏洩した」として逮捕され,11月にOfficial Secrets Act違反で告訴された。有罪となれば懲役2年の可能性。

弁護側は被告人の行動はdefence of necessityで「米国政府の不法行為を告発するため」と主張。その主張をサポートするblogやleftist系の記事などは少ないわけではないのだが,leftistがこれだけ支持しているということは,leftist嫌いがまったく支持してないことは推測はできる。

2003年11月13日のBBC記事
Ms Gun claimed any alleged leaks exposed "serious illegality and wrongdoing on the part of the US Government" and were designed to prevent "wide-scale death and casualties among ordinary Iraqi people and UK forces".
_
A spokesman for the Government's communications headquarters at Cheltenham confirmed Ms Gun had worked for the organisation but said it "was a matter for the Metropolitan Police" who charged her.
_
A spokesman for Liberty claimed the case was likely to put the legality of the whole war on Iraq on trial.

《大意》
Gunは,リークしたとされるものは「米国政府側の重大な違法性ならびに過ち」を明らかにしたが,そもそもは「イラクの一般の市民と英軍【注:「英米軍」としている記事もある】の犠牲を出さないようにするため」のものだったと述べている。
一方GCHQはGunが職員であったことは認めているが,「この件はロンドン警視庁の管轄」と述べるのみである。
Liberty【注:Gunの弁護人を出している組織】のスポークスマンは,この裁判では対イラク戦争そのものの合法性が問われることになるだろうと述べている。


興味深いことに,BBCで"GCHQ Gun"で検索して出てくる記事はこの1件のみ。検索ワードが"Katharine Gun"でも"Katharine Teresa Gun"でもこの記事にしかヒットしない。ということは,BBCはこの件をあまり熱心に伝えようとしていない。

英国の場合,他のメディアの記事もお互いに紹介し合ったりしてるのが普通なので(BBCには「新聞ヘッドライン」みたいなコーナーがあるしthe Guardianは全新聞横断型ニュースメールを発行している),記事がほとんどないこと自体がとても奇妙に見える。中途半端に時間が経過してしまっているので(公判が始まったのが1月半ば)うまいこと検索できないのかもしれないけれど……。

そういえば,2003年11月はハットン・インクワイアリの最中だ。とすれば,私が新聞のデスクだったらKatharine Gunのこの件は記事にするだろう。Gunに対して肯定的なものであれ否定的なものであれ。Whitslebrowerが米TIME誌の流行語大賞(?)になったのもつい最近だし。

というわけで,GunをサポートしているLibertyのウェブページ(Libertyは1934年設立の英国のhuman rights and civil liberties organisation)にリンクされている記事は,the Guardian/the Observer(両者は基本的に同じもの:後者は前者の日曜版)が5件,米NYTが1件,米TIMEの欧州版が1件だけ。同じく支援してる米国のIPAのページには,チリ発のニュースだとかNorman Solomonの記事など,Libertyのページにリンクされてない記事もあることはあるし,12月末のindymedia UKの記事にもいくつか挙げられているのですが,絶対数としてやはり少ないように思います。どーいうこっちゃ……?

ま,とりあえず手当たり次第に記事を探してみることにします。

■英米の支援サイト:
- Liberty - Support Katharine Gun(英国)
支援署名あり。surname:苗字,firstname:名前などを入力。

- IPA - THE KATHARINE GUN CASE(米国)

■トラックバック:
- 黙殺されたキャサリン・ガン事件:米英情報部はイラク戦争開始前に国連を盗聴していた(「暗いニュースリンク」さん,2004年2月16日)
- メキシコとチリが問題提起!開戦前の英米の盗聴?(「blog for japan」さん,2004年2月16日)

■日本での新聞記事:※下記以外にあれば教えてください
- 米、イラク問題で安保理6国を盗聴・英紙報道日本経済新聞さん,2003年3月2日)

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■追記:
LibertyのウェブページからリンクされてたGuardian
記事
(2004年1月18日)に,こんな1文がある。
The document urged Britain to join in a dirty-tricks operation aimed at discovering the voting intentions of United Nations delegations on the eve of the war on Iraq.

すなわち,「米NSAの覚書があったから,英国は米国の必死の工作に加わることになったのだ」と読解する私はひねくれすぎでしょーかね。ここでもまた「私は悪くない,仕方がなかった」が見えるんですが,考えすぎでしょーかね。っていうか私はGuardianという新聞を他の新聞と比べてとりわけ信用してるわけじゃないっていうだけなのかもしれませんが。(他の新聞と比べてとりわけ信用してないというわけでもないかもしれないけど。)

■さらに追記:
さっきBBCを検索したときはヒットしなかったBBC記事,2003年11月17日。(BBCはまれにこういうことがあります。検索プログラムの都合かな?)元MI5の人のご意見なども読めます。

あと,スコットランドの新聞,the Scotsmanの記事(2004年1月19日=公判開始の件)。これはほとんど5W1Hだけ。

■さらにまた追記:
どなたかが作成している記事リンク集を発見……でもやはりGuardianがずらりとあって,英メディア記事は既に見つかっているもののみ。
posted by nofrills at 14:00| todays_news_from_uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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