2003年11月30日

alleged の定義

alleged (adj)
「1.申し立てられた,断定された 2.疑わしい」<大修館書店,Genius
「申し立てられた;真偽の疑わしい」<研究社,Readers

But the disclaimer wasn't removed. The New York Times, which originally broke the story, now spends its time casting doubt on the killings, calling them "alleged".
-- Robert Fisk, Tricky Stuff, Evil -The lies we tell our enemies who are now our friends, November 29, 2003allegedがある文を日本語にする際,研究社リーダーズの定義のようにずばり「真偽が疑わしい」としてしまうと,原文が損なわれます。フィスクのこの文はその好例です。

引用した文のコンテクストの説明が必要ですね。

この文は,1915年のオスマン帝国(オスマン・トルコ)によるアルメニア大虐殺についてのものです。the disclaimer とは,ロンドンの帝国戦争博物館で開催された展覧会に出品されたこの大虐殺の史料に添えられていた注意書きで,現在のトルコ政府による「ジェノサイドはなかった。アルメニア人たちは大戦の混乱で亡くなった」という主張が書かれていたそうです。

NYTは,フィスクのこの文章によると,最初にこの大虐殺のことを取り上げた新聞であるようですが,そのNYTも現在はallegedという語を用いて,組織的殺戮に疑問符をつけているとのこと。

フィスクのこの文章は次のように続きます。

Not long ago, the paper carried a well-known 1915 photograph, taken by a German, of a line of Armenian men being led away to execution. But The New York Times caption fraudulently stated that the Armenians were being "marched to prison [sic] by Turkish soldiers in 1915".

「処刑場へ連れて行かれる人々」の写真に「収容所に向かって歩かせられている人々」とキャプションをつけている,と。

allegedという語を用いた事実のごまかしがあり,写真のキャプションに嘘がある。

今年東京で公開された映画,『アララトの聖母 Ararat』を,私は見逃してしまったのですが(「明後日なら時間が空く」と思ったら「今日で終わりかよ!」という状況),トルコが「やってないっていったらやってないんだ」と主張し,米国も「そう言うんならそうかもしれないね」と同調して,暗に「ほれ,応援してやってるんだから,何か見返りよこせ」と催促しているこの醜いディプロマシーの中で,こういう作品を見られることはラッキーです。映画は事実そのものではないけれど,それでも「もしこれが事実だとすれば」を考える契機にすることはできます。

むしろ私としては,トルコがどうのこうのという話よりも,ゴーキーという画家に興味があるのですが。

allegedの例をもうひとつ。

If convicted, the accused, all allegedly linked to the IRA, could face 20 years in a Colombian prison.
--BBC NEWS, Colombia accused address court, 30 July, 2003

コロンビアで身柄を拘束されている3人のアイリッシュ(ひとりはUKの北アイルランド出身,残り2人はアイルランド共和国出身:国籍というものの曖昧さはIrishという語には非常に顕著に現れます) の裁判についての記事です。

「有罪とされた場合,被告人はコロンビアで懲役20年の刑に服することになるかもしれない」というのが大筋ですが,その「被告人」についての説明の部分で,all allegedly linked to the IRA という形でalleged(ly)が用いられています。

コロンビア当局はこの3人のアイリッシュを「IRAと関わりがある」としています。本人たちは否定しています。IRAも(!)否定しています。そのことが,alleged(ly) というたった1語で表されています。(もちろん文脈のサポートがあってのこと。)

allegedは過去分詞です。つまり「受け身」です。「誰かによって申し立てられている」ということであり,「その結果,どうも疑わしい」ということです。意見が対立する者の一方が「〜だ」と申し立てているが,それはどうも疑わしいんじゃないか,そういう時に用いられる表現です。

だから上の例は,「被告人は全員がIRAとの関わりがあるとされているのだが(それはどうも疑わしくて),有罪となればコロンビアで20年の懲役刑に服することになるかもしれない」という感じです。

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■ロバート・フィスクのこの記事は,とてもよい文章だと思います。私はこの人の文章のリズムが好きで,文学的な調子も好きです。題材もテーマも好きです。でも私は日本語化はしません。特にこの記事は,一瞬やろうかとも思ったのですが,やめました。普段フィスク記事の日本語化をしていない私があえてこの記事をということで,意図せざる“意味”が生じるかもしれないので。フィスク記事はAll About ROBERT FISKというサイトさん(respect!)に集約されています。

■コロンビアで裁判にかけられている3人のアイリッシュ,通称Colombia Threeについては今日この記事が出ていたので思い出しました。いろいろと考えるところはあります。「何が事実か」ではなく「何を口実にするか」が前提で進められることがあまりに多すぎます。
posted by nofrills at 15:10| 英語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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