2004年09月08日

話くらいしたってあんたは多分殺されないし,ロシアはなくならないよ,と思った。

ベスランの小学校から生還した子供たちの証言を読み,プーチンの「事件についての公式調査は行わない」という発言を読み,先日毒を盛られた(と私は思っている)ポリトコフスカヤの件についての記事を読む。

頭がいっぱいだ。まず,子供たちの証言

私はこの記事について書こうとして,「まさに地獄だ」という常套句を使いたくなった。それでしか表現できない何かが自分の中に出てきた。

――(水さえも飲めずにいたが),彼らは男子の服をよこせと言い,それをバケツの水につけて床をふき,そしてその汚れた服を投げて返して「飲み水だ」と言った。

――突入が開始されたとき,武装グループのひとりが子供たちに向かって「助けてやる」と叫んだ。多くの子供たちがその男のところに走っていった。男は自爆した。子供たちは死んだ。

――爆発があった。天井が落ちてきた。小さな子たちが血まみれで転がっていた。動かなかった。ちぎれた手足が散らばっていた。そして次に,彼らがロープに吊り下げていた爆弾が爆発し始めた。ひとつまたひとつと爆発し,爆発はどんどんこちらに近付いてくる。立ち上がれる者はみな,死に物狂いで逃げた。

生き物としての地獄(水もなく食料もなく,眠れず,ぎゅうぎゅうづめにされて,など),人間としての地獄(なぜこのような目に),こんな体験をこんなに若い人々が。

あまりの理不尽さに喉が詰まる感覚を覚える。

その上で,武装グループのひとりの言葉は,私は読んでおかなければならない。15歳のSanta Zangiyevaさんの証言:
"There was this thin tall man of about 35, a typical Chechen, his right hand bandaged. He was the angriest of our captors, he was threatening us all the time and firing into the ceiling. It was so stuffy I was unwell, I fainted several times, so my mum asked him to take me to the corridor for a while to take a breath of air. To my surprise he agreed. In the corridor I was nearly sick, my legs gave way, and sat on a rucksack lying by the wall. But he said: 'Don't sit on this one, there are mines in it, sit on that one instead'...
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"I asked him 'Will you at least let the children go?' He said: 'No - why? Your Russian troops in Chechnya catch children just like you and cut their heads off. I had a daughter, about your age, and they killed her,' he said."

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やせて背の高い男の人がいた。35歳くらい。典型的なチェチェン人だった。右手に包帯をしていた。武装グループの中でも彼が一番怒っていた。いつも私たちを脅かし,天井に向けて発砲していた。ぎゅうぎゅうづめになっていたので私は気分が悪くなり,何度か気を失った。だからママがその人に,この子に空気を吸わせたいから廊下に連れ出していいかと訊いた。意外なことに,その男の人はいいぞと言った。廊下で私は吐きそうになっていた。脚はちゃんと立たず,壁ぎわに置かれていたリュックサックに腰をかけようとした。するとその男の人は言った。「それには座るな,地雷が入っている。それじゃなくてこっちのに座れ。」
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その人に私は訊いた。「小さな子だけでも逃がしてくれるよね?」彼は言った。「いいや――どうして? チェチェンではお前らロシアの軍隊がお前のような子どもを捕まえては頭を切り落としているんだ。俺にも娘がいた。ちょうどお前と同じくらいのね。その娘をロシア軍は殺したんだ。」


知人が4日に私にくれたメールに,武装勢力の人が「チェチェンでは毎日,こういうことがおきているんだ」と子どもに向かって言ったとか,と書いてある。

それはこのことだろう。

一方でこのような証言もある。15歳のMarat Khamayevさん。
"Before the assault the bandits started arguing with each other about something. I've spent a long time in Chechnya, I know the Chechen language, and they weren't speaking Chechen - they were just speaking a strange language like Arabic, and also Ingush.
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突入前,武装グループが何かのことで口論を始めた。私は長い間チェチェンにいたことがあるのでチェチェン語はわかるのだけれど,彼らの使っていたのはチェチェン語ではなかった。アラビア語のような耳慣れない言葉を喋っていた。それとイングーシ語も。


ここ数日,毎日どのニュース番組でも「唯一生きて拘束された武装勢力のひとり」という男の人を見るが,あの人の言葉は何語? ロシア語だと思うのだけどわからない。

ああクソ,あたしの世界なんてちっちゃいちっちゃい。聞いただけで何語かわかる言語なんて,母語の日本語と,あとは英語,フランス語,など,ほんのいくつかだ。

……何の話だよ。

続いてプーチン。事件についての公式調査は行わない」と明言。

まだ早いだろう。ってか,服喪の日とか病院へのお見舞いとかの「パフォーマンス」なんか,誰も求めてないと思う。そんなことより,「なぜこんなひどいことが起きたのか」の原因を究明することと,再発を防止するにはどうしたらいいのかを考えるべきではないのか。

プーチンの場合,「再発を防止するにはああいう騒ぎを起こす奴らはみな(以下略←いくら私でも書けん」と考えかねないと私ですら思わなくもないのだけれど。

というわけで,詭弁@プーチン流。(レベル的には小泉流とあまり違わないようだ。いや,多少レベル高いか?)
"Why don't you meet Osama bin Laden, invite him to Brussels or to the White House and engage in talks, ask him what he wants and give it to him so he leaves you in peace? Why don't you do that?" he said with searing sarcasm.
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「ならばオサマ・ビンラディンを(EUの)ブリュッセルなり(USの)ホワイトハウスなりに招いて対話し,何が欲しいのかを訊いてそれを与えてやったらどうです? そうすればビンラディンもあなたがたの平和を乱さない。どうしてそうなさらないのですか?」と彼(=プーチン大統領)は皮肉を込めて言った。


おーい,テフロン・トニー!プーチンに言ってやれ!「私は“テロリスト”と対話し,和平の枠組みを作りました」と!むろん,ジェリー・アダムズも同席させろ!

Talk, talk and talkの精神で北アイルランド和平を主導したトニー*1になら,このくらいのことはできる。

……書いてて虚しくなってくるのでやめときます。

いずれにせよ,「チェチェン独立派武装勢力」は,彼らがこれをしたかどうかすらまだ完全には証明されていないのに,「テロリスト」であるだけでなく「チャイルドキラー」になってしまった。

さらに開き直るプーチン,とんでもない引用をしていやがる。
"Correct me if I'm wrong, but Margaret Thatcher, whom I've met more than once said: 'A man who comes out into the street to kill other people must himself be killed'," he told the Guardian.
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間違っていたら訂正してください。マーガレット・サッチャー(元英国首相)とは私は何度もお会いしていますが,彼女はこう言っていましたよね。「他人を殺すために外に出てきた者は,殺されなければならない」と。


……はい,確かにそういうことを決定してます,サッチャーは。1984年にIRAに爆殺されかかって(本人は無傷も,議員や家族ら5人が死亡),殺される前に殺す,みたいなことを正当化しちゃいました。

で? 北アイルランドの一連の「テロ」が激減したのは,サッチャーが「お尋ね者は見つけたら殺せ」ということをやったからか? 冗談でしょ。

そして,万国の……何でもいいけど何かやってる者よ,団結せよ! プーチンの最悪の台詞。
The president admitted Russian forces had committed human rights violations in Chechnya but, like the torture by US soldiers in the prison of Abu Ghraib in Iraq, these were not sanctioned from the top, he said.
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"In war there are ugly processes which have their own logic," he said.

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プーチン大統領は,ロシア軍がチェチェンで人権侵害をしていることを認めたが,イラクのアブグレイブ刑務所における米軍兵士たちによる拷問と同じく,チェチェンでの人権侵害は上層部からの指示ではないのだと述べた。
「戦争では醜悪なプロセスがあります。そしてそれらにはそれら独自のロジックがあるのです。」
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※関係ないんですが,このガーディアンの記事,abuseじゃなくてtortureと書いてる!書いた人はJonathan Steeleさん。


米軍がアブグレイブを「一部のはみ出し者が……」と弁解し,軍の関与はなかったという姿勢を打ち出したことは,こーゆーたわけた言い訳を可能にしたのだ。

あーもう,記事1つ読んでこんなに頭がショートしそうになるなんて,小泉流の憲法前文珍解釈以来だ。

そして最後,チェチェンを独立させない理由。
"There are Muslims along the Volga, in Tatarstan and Bashkortostan. Chechnya isn't Iraq. It's not far away. It's a vital part of our territory. This is all about Russia's territorial integrity," he said.
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ヴォルガ川流域,タタールスタンやバシュコロトスタンにイスラム教徒がいます。チェチェンはイラクではありません。チェチェンは遠く離れた場所ではないのです。チェチェンは私たちの領土の極めて重要な一部です。これはすべて,ロシアの領土的統一の問題なのです。


はぁ。もー好きにしてください……と言いそうになり,しかしそのために,ロシアの領土のために,チェチェンでどんなことが起きているのかを思う。

「一部のはみ出し者」が学校に乱入して女生徒を捕まえ,斬首してるんですね。

このインタビュー記事の前の方で,プーチンは「まともに話のできる相手ではないのだから話はしない」というようなことを言っている。

まともに話のできないのは誰よ。

次。そのチェチェンのジャーナリスト,アンナ・ポリトコフスカヤの件。先日のpoisoning*2について,ロシアのNovaya Gazeta紙が公的な調査を要求というもの。

ただし記事を読んだらそんなことが主題の記事じゃない。彼女が倒れたとき,彼女はジャーナリストとしての自分のネットワークを使って,ベスランの学校を占拠していた人たちに,人質を解放させるよう働きかけるためにベスランに行くところだった,ということが主題だ。

ただでさえ情報がないのだから,憶測はしない。ただ,彼女の同僚が,彼女はクレムリンからの司令で一服盛られたのだと思うかと訊かれ,「あり得ない話ではない」と答えていることだけは,覚えておこう。

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*1;
私はブレアは大嫌いだし,ブレアが人間だとは思えないが,ただひとつ,「対話」をスローガンに北アイルランド政策を展開したことだけは,評価されてもいいと思う――ただし裏にごちゃごちゃといろいろあって,その「対話」がエクスキューズになってるのだから,全体としてはまったくどうしようもない。ただ,「対話」を打ち出し,「暴力の応酬はやめよう」みたいなきれいごとを言ったから,英国は暴力を使えなくなった。それは効果があったはずだ。
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これで北アイルランドのリパブリカンは,「武装闘争」でなければ達成され得ないものではなく,政治や交渉の力で勝ち取るべきものを目指すことになったのだ。英国(と英国がバックアップする組織)の暴力が止まっただけでなく。


*2;
poisoningについて:「服毒」「中毒」という日本語だと「意図していようとしていなかろうと自分から毒を」というニュアンスが感じられるように思うが,英語のpoisoningにはそのようなニュアンスはない。「毒物が体内に取り入れられてそれに身体が反応し」くらいだ。あるいは明確に「他人に毒を盛った」の場合もある(他動詞としての用法)。
posted by nofrills at 01:48| i_dont_think_i_am_a_pacifist/words_at_war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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