2005年09月14日

北アイルランドの暴動,続報。

週末から続いているベルファストでの暴動は,ベルファスト以外の場所でも発生。County Londonderryではカトリック墓地で墓石への落書きなどがされ,また逆にフリー・プレスビテリアン教会への落書きなども

12日のガーディアン記事には,「プロムの夜はフィドルの音で華やかに平和に過ぎるはずだったが,ベルファストでは銃撃戦,騒擾,爆弾,ウォーターキャノンなど昔よく聞いたあの音」,「市の至るところで暴動となり,ハイジャックされる車の数があまりに多いので警察は道路を封鎖した」,「市の中心部でも乗用車がハイジャックされている」,「投げられる燃料爆弾の数が多すぎて,警察は数えるのをやめてしまった」,「1000人による騒擾となったシャンキル地区は,最近のベルファストというよりはまるでガザ地区」,「市の中心部でプロムの出演者が『北アイルランドにとてすばらしい一夜』などと言ってる横で,市の西部では黒い煙がもうもうと立ち上る」などなど,ちょっと大げさな描写じゃないのかと思うような記述が並べられている。

それでも,外務省の「海外安全ホームページ」の「英国」のページには,「現在、危険情報は出ておりませんが、最新スポット情報や安全対策基礎データ等を参照の上、安全対策に心がけてください」とあり,「最新スポット情報や安全対策基礎データ」を見ても,寸借詐欺とかのことは書かれているのだが,ベルファストのことは一言も書かれていない。(そろそろ,一言くらい書かれてててもいいんではないかと思うんですけど。。。)

ガーディアン記事からちょっとしたTips――今ベルファストでパステルカラー(ピンクや黄色)を着てるのは,ロイヤリストの暴れん坊さんたちだそうです。ベルファストではそれらの色の着用は避けた方が無難でしょう。(しかし何でそんなかわいい色なんだ。)

っていうか,外務省の海外安全ページの地図では,一見,北アイルランドはどこにも帰属してないみたいになってるし……(「ブリテン島」をクリックすると,「ブリテン島」はハイライトされるのだが,北アイルランドはハイライトされない。北アイルランドをクリックすると,「英国」のページに飛ぶ。)

びみょー。

ともあれ,ベルファスト暴動について。暴動の原因……というより口実は,ベルファスト北部で行われたオレンジオーダーのマーチが,カトリックのエリアを通らないように,100メートルばかりずらされ,ピースライン(カトリックとプロテスタントの間に設置されて30年くらいになる壁)の門が閉ざされていたこと。

どうやら,ルートを変更させられたために,重要なスポットで示威行為文化的お祝いの行進ができなくなってしまったようだ。プロテスタント側はこれを「マーチする権利の侵害である」として大反発。(right to marchは彼らのスローガンの一種だと私は思ってます。human rightsという語句はカトリック側が使ってるから,プロテスタントは使いたくなかったんでしょうね。)

だが実際のところは,パレードがどうのこうのというのをトリガーとして," This is not a peace process, this is a republican process,"という心情が暴力的に噴き出した,ということのようだ。

とはいってもルート変更で「マーチする権利の侵害」の大合唱になり,「グッドフライデー合意反対」の感情の噴出になることは珍しいことではない(むしろよくある)。でも普通,こんな大暴動にはならない。今回ベルファストで大暴動になった裏には,何らかの組織的なものがあったはずだ。

今回の事態に決定的だったのはこれだろう:
Their protests followed two nights of serious rioting, involving children as young as five, after police had launched raids aimed at curbing the bloody feud raging between the rival loyalist paramilitary groups, the UVF and LVF, that has claimed four lives this summer.


「5歳児も加わっていた」というのもひどい話だが(この記事以外にも,どこかでこの情報は見た),それはこの場合は枝葉の部分で,本筋は,この夏のUVFとLVFの内紛(LVF支持者が家を追い出されたりもした件)に絡んで,警察が強制捜査を行ったということ。

今年はじめ,IRAがパブでの殺人事件について警察の捜査に協力しなかったときには,DUPやらUUPやらのプロテスタント/ユニオニスト/ロイヤリスト勢力の政治家たちは一斉に「警察に協力しないなんてとんでもない連中だ」と言っていた。まさに目くそ鼻くそをわらう,だ。

「目くそ鼻くそをわらう」といえば,掲示板とかでもよく「どこにも行き着かない議論」として「IRAの爆弾男は監獄に戻るべきだ」,「それを言うならUDAの殺人鬼も監獄に戻るべきだ」みたいなことになったりする。(掲示板に書き込んでる人の多くは,「そういうことを言ってても何にもならない」ということで,それらの書き込みはスルー。)

「英国政府と英国の治安当局はリパブリカンの味方だ」とロイヤリストは考えるようになっている。なぜなら英国政府はグッドフライデー合意のもとの和平プロセスの推進を,加速させているのだから。(彼らはもともと,グッドフライデー合意には強く反対している。だから彼らの言い分は一貫してはいる。でもそれが妥当なものかどうかは別途検討を要する。)

グッドフライデー合意は,1998年のレファレンダム@アイルランド島のときに,特に北アイルランドでは8割とかの圧倒的な支持を得ている。投票率もものすごく高かったはずだ。

つまり,当時,合意に反対していたのは「一部の人たち」だけだった。

しかし,合意がレファレンダムで可となった同じ年に,RIRAがOmaghの爆弾で29人も殺し,“合意反対派”を増やした(RIRAもまた合意反対の考えだったのだが)。

さらにまた,98年の合意が何年かかっても前進しないことで「合意は死んだ」というプロパガンダが出てきた。これにより,死んだものを支持してもしょうがないという,あらかじめ用意された結論に基づいて単純に導き出される結論が,意外と大きな説得力を有する状態になっている。それが,2003年&2005年の選挙での,DUPの躍進という結果に示されていることのひとつだ。(→政治への幻滅がDUPが伸びた理由という説明もある。)

グッドフライデー合意が進まなかったのは,PIRAが合意を拒んでいたからじゃない。IRAだけを武装解除させようとしてたからだ。むろんIRAはテロ組織だし,武装解除はして当然なのだが,一方でロイヤリストのテロ組織は武器を持ったままでいた。(今回の暴動で,それが呆れるくらいに公然と示された。)

今回のことも,基本的に若いのが暴れているだけならこんなにおおごとになることはあまりないわけで,そこには銃&実弾や火炎瓶を持っている組織の存在があり,またアジテーションがある。

アジテーションの一例:
Then tension hit a higher notch when Ian Paisley, the now undisputed leader of unionism, warned in a rousing speech that the Whiterock parade could prove "the spark which kindles a fire there could be no putting out".


イアン・ペイズリーのアジ演説はすごいなあ……(^^;)
 伊達に原理主義者やってないって感じ。

騒ぎが一通り収まったあとも,街はUDAとUVFメンバーが仕切ってるとのこと。

ロイヤリストの言い分:
"We have got the guns out now and we are not putting them away," another added. "They have got rid of everything Protestants hold dear, the UDR and the Royal Irish Regiment. The police are now filled with Taigs [Catholics] and they treat us young Protestants as scum. They have the Americans, the South, Blair and all the rest. Who have we got? The Grand Old Duke [of York, aka Ian Paisley] and Reg bloody Empey...[The Ulster Unionist leader.]"


つまり,「今やカトリックは何でも持っている。こっちはDUPとUUPだけじゃないか」という心情……昼メロみたいなことになってる。この発言主は「警察は今やカトリック野郎ばっかりだ」と言うが,分断されたときの北アイルランドの人口比がプロテスタント6のカトリック4として,警察の中ではその割合が8:2とか9:1とかいうことになっていたのが,正常な状態に戻りつつあるだけ。「警察といえはプロテスタント」という状態で,「カトリックもプロテスタントも平和に共存しましょう」とか言ってる方が異常だということに気づかない人々が,暴れることで意思表示をしようとしているのが,今回の事態。

英国政府はすでに,この「暴動」(a state of disorder involving group violence:「テロ行為」act of terrorという表現は用いられていない)がロイヤリストのパラミリタリーによるものであると断定している。また,PSNI(北アイルランド警察)は,オレンジオーダーが今回の事態の真の責任者であるとしている。

12日のガーディアン記事より:
Northern Ireland secretary Peter Hain challenged loyalists this morning to decide if they wanted to become known as police killers. He told BBC Breakfast he was "horrified" by the violence that had ravaged the streets.
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"This is taking Northern Ireland, or attempting to take it, back to a hideous dark past," he said. "These were serious attempts to kill police in some instances.
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"This is really not loyalism but 'gangsterism' masquerading in this community. They are turning on themselves. These communities are being torn apart by their own paramilitary groups."
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The Northern Irish chief constable, Sir Hugh Orde, said he was holding the Orange Order "substantially responsible" for the rioting, which was "some of the worst" in the province for many years.


さらにまた,PSNIは,ロイヤリストのパラミリタリーが意図的に(殺そうという意図を抱いて)警官を狙ったと見ている。

その「ロイヤリストのパラミリタリー」とは具体的に誰(どれ)なのかということだが,結論としては,UDAとUVFだということ。

再度,12日のガーディアンから:
The UDA and UVF are both supposed to be observing ceasefires and disarming in support of Northern Ireland's 1998 peace accord.
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But while the IRA has built a major base of support through its Sinn Fein party and has become central to ongoing negotiations on Northern Ireland's future, the Protestant paramilitary groups have failed to win electoral support and barely register in political talks.


カトリック側パラムはIRA&シンフェインが実際に政治的な側面での支持(票数と議席)を得ている一方で,プロテスタント側パラムは政治的な側面では力がない。だから彼らは政治的な交渉には関わることもできない(→したがって暴れる),と書いてある。

彼らに政治的な側面での力がないのは,CAINによるとこういうこともあるようだ:
The UDA had a policy of excluding Members of Parliament (MPs) and clergymen from its membership and sought to retain its working-class credentials.


「UDAには国会議員はいない」。つまり政治的な力は,組織自体にはない。

文中に"working-class"という用語があるが,この用語は誰が何のために用いているのかによって,その“意味”が変化する。つまり,「唯物史観&階級闘争」な人々が使う場合と,「移民が俺たちの職を奪う」な人々が使う場合と。もちろん,UDAの場合は後者である。

※なお,オレンジオーダーは,いわば「純粋培養のプロテスタント」しか入れない組織で,グランドロッジとかグランドマスターとかいう用語(?)を用いてはいるが,組織の根の部分はワーキングクラスであるらしい。

UDAは2001年にも絶賛非合法活動(テロ活動)中であると政府の太鼓判を押してもらっている。DUPが「IRAがIRAが」と叫んでいた(そして英国のプレスはそれをたくさん報道した)ときに,UDAも武器を持ったまま,そこに存在していた。
posted by nofrills at 02:34| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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