2005年07月01日

映画『ホテル・ルワンダ』公開を求める署名運動

『ホテル・ルワンダ』日本公開を求める会というサイトが立ち上がり,この映画の日本でのロードショーを求める署名運動が,7月1日から開始されています。

なぜ署名かということは,「求める会」さんのサイトに書かれています。

署名は,今のところはオンライン署名ではなく,紙に署名する形。上のサイトから「署名運動」のページに進み,用紙をダウンロード(PDF,MS Word,JPEGのいずれかが選択できる)し,それをプリントアウトして,署名を集めて(1人でもOKとのこと),用紙に記載されている住所あてに郵送。

署名の期限は,サイトと署名用紙をぱっと見たところ見あたらないので,そんなに早く終了するわけではないと思います。

以下はやや長くなりますが,映画『ホテル・ルワンダ』の主題について,制作者について,および映画の公式サイト(英語)についてなど。■ルワンダの「大虐殺」:
1994年にアフリカの内陸の小さな国ルワンダ(→外務省の各国情勢ページWikipedia日本語)で起きた大量殺戮は,当時は「ツチ族とフツ族の紛争」と伝えられていたように私は記憶していますが,“複数の勢力が武装して対峙する”というイメージを伴う「紛争」というよりむしろ,一方からもう一方に対する,一方通行の「襲撃」「攻撃」だったようです。

94年4月から6月のこの大量殺戮については,日本の外務省サイト(上記)でも「大虐殺」という言葉が使われています。この「大虐殺」は,英語ではgenocideと表します。これは,ただ単に「暴徒化した人々があちこちで殺戮を行なった」のではなく,「ある集団の根絶を目的とした,組織的な大量殺戮」であることを示します。dictionary.comで閲覧できるウェブスター辞書での定義を見ると,genocideは,The systematic and planned extermination of an entire national, racial, political, or ethnic group.(ほんとはもっと厳密に法的な定義があるのですが割愛……国連の常任理事国になりたいなんていう考えを抱いている国の国民としては,このときの「ジェノサイド」をめぐる安保理での紛糾は,知っておくべきことではないかとは思いますが。→例えば「次世代情報都市みらい」さん04年3月28日記事参照。)

「大量殺戮」「大虐殺」などと用語が混在すると面倒なので,以下,「ジェノサイド」と表します。「ジェノサイド」には「ある集団の根絶という目的」が含まれており,なおかつそれが「組織的」なものであることに,特にご注意ください。

(なお,簡単にいうと,「ジェノサイドがあった/なかった」というのは,「人がたくさん殺されたかどうか」ではなく,「人がたくさん殺された背後に,ある集団の根絶という目的があったかなかったか,それは組織的なものだったのかそうではなかったのか」ということを表します。ルワンダのケースでは「そういう目的があり,組織的だった」が認定されています。)

このジェノサイドで殺された人の数は,「100万に迫る:almost one million」(←映画公式サイトより)といわれています。

事態が沈静化して数ヵ月後の94年11月,国連決議955により,このジェノサイドについて,「ルワンダ国際法廷」が開始されました。(国際刑事裁判所が発足する前のことなので,旧ユーゴと同様,個別に決議を出して個別に法廷を開いています。)罪状は「ジェノサイド罪」と「人道に対する罪(crimes against humanity)」およびジュネーヴ条約違反。この国際法廷については,JNICCさんのサイトをご参照ください。

■映画『ホテル・ルワンダ』について:
映画『ホテル・ルワンダ』は2004年,イギリス/イタリア/南アフリカ制作の映画です。
http://www.imdb.com/title/tt0395169/

監督はテリー・ジョージ(Terry George)。北アイルランド生まれで米国籍を取得したフィルムメーカーです。IMDBを見ると,監督より脚本の仕事の方が多い人です。脚本の仕事としては『父の祈りを』(英国でのIRA爆弾冤罪事件――Guildford Four――を描いた映画。ダニエル・デイ・ルイス主演)などがあります。ご本人も1970年代に,リパブリカン活動家(=IRAなど過激派の関係者)との嫌疑で収監された経験があるそうです。(当時は見境なく逮捕・勾留が行なわれていました。)

出演はドン・チードル(→この作品で第77回米アカデミー賞主演男優賞),ソフィー・オコネドー(→UKの女優,IMDB),ニック・ノルティ,ホアキン・フェニックス,ジャン・レノ他。

※出演俳優についてなど,「映画情報」的なことは,ウェブ上にたくさん書かれていますので,ここではこれ以上は割愛します。興味がおありの方は検索エンジンで「ホテル・ルワンダ」で検索してみてください。

■映画『ホテル・ルワンダ』のストーリー:
映画はラジオの音声で始まります。
[first lines]
Radio voice: [voiceover] When people ask me, good listeners, why do I hate all the Tutsi, I say, "Read our history." The Tutsi were collaborators for the Belgian colonists, they stole our Hutu land, they whipped us. Now they have come back, these Tutsi rebels. They are cockroaches. They are murderers. Rwanda is our Hutu land. We are the majority. They are a minority of traitors and invaders. We will squash the infestation. We will wipe out the RPF rebels. This is RTLM, Hutu power radio. Stay alert. Watch your neighbours.

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ラジオの声:(ボイスオーバー)なぜ私がツチ族を憎悪するのか,こう訊かれます。私の返事は「我が国の歴史をお読みなさい」です。ツチ族はベルギー人植民地主義者のコラボレーター(協力者)でした。ツチ族は私たちフツ族の土地を盗み,私たちに鞭打ったのです。そして今また,ツチ族が戻ってきた――反乱軍の連中として。奴らはゴキブリです。人殺しです。ルワンダは私たちフツ族のものです。私たちが多数派なのです。奴ら売国奴と侵略者は少数なのです。私たちはこの寄生虫どもの侵入を壊滅させます。RPFの反乱軍を一掃します。こちらはRTLM,フツ・パワー・ラジオです。油断することなく,近隣を監視しましょう。
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IMDBより


映画のストーリーは,「公開を求める会」さんのサイトの「シノプシス」のページにまとめられています。

無味乾燥にまとめると,94年,ジェノサイドが始まったルワンダの首都キガリの外資系ホテルの支配人,ポールが,虐殺される側のツチ族の人々を,国連平和維持軍の人たちもステイしている自分のホテルに避難させ……というストーリーです。ホテルも,支配人のポールも実在で,ポールの体験も実際のものです。

レビューなどを拝読すると,映画ではひとりひとりの登場人物がかなり丹念に描かれているようです。ニック・ノルティが演じる国連平和維持部隊のオリバー大佐,ホアキン・フェニックスが演じる新聞記者の印象的な台詞が,IMDBのQuoteのページに挙げられています。

■公式サイト(英語):
映画の公式サイトはhotelrwanda.com。ページを開くとFlashで(音声注意),映画のスチールをつなぎ,「ひとつの国が狂気の淵に沈む 国際社会は目をつぶる そのときひとりの男が腕を広げ 希望が生き続けられる場所をつくった」という意味の英文の重ねられた,15秒程度のイントロがあります。

このイントロが終了するとmain.htmlが開きます。(デフォルトだとずっとBGMがループしています。画面の右上の隅にある"music on"のところをクリックすればBGMは停止します。)

コンテンツは,FILM, STORY, AN UNLIKELY HERO, BIOGRAPHIES, INSPIRATION, FACTS, GET INVOLVEDの7項目。全体として,制作サイドの考えを詳しく記述した部分の分量が多いです。

FILMは「映画紹介」。DVD情報やシノプシス,予告編,受賞歴など。

STORYは,94年のルワンダのジェノサイドについて,およびこの映画の基となった体験をしたポールについての記述。ルワンダのジェノサイドについての説明と,監督がこの映画を製作したきっかけについて(A Modern Genocide),フツ族とツチ族についての本編からの抜粋映像(The Hutus & The Tutsis),制作の過程についての監督のコメント(Director's Commentary)と,ルワンダのジェノサイドおよびルワンダについてのリンク集(Related Links)。

上記のうち,A Modern Genocideのページの概要――この映画がどのような映画なのかを雄弁に説明している部分です:
90年代のルワンダの紛争は近年のアフリカにおいて最も悲惨なものとなった。殺戮は100日間続き,100万人近くが殺された。首都キガリではあちこちで血の川が流れていた,しかし誰も助けに来なかった。国際介入もなかった。部隊の派遣もなかった。有志連合(coalition of the willing)もなかった。国際的支援もなかった。世界はこの紛争を無視することにしたのだ。時おり「部族間の戦争状態」についての報道はなされたが,それは「第三世界でまたこういうことが」という扱いを受け,何ら注目すべきことではないと見做されていた。フツ族の過激派がツチ族の隣人を殺し,フツ族であっても殺戮を止めようとする者ならば殺していた。そして世界はそれを放置していた。
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「10年前,世界各国の政治家たち【訳注:主に欧米の政治家たちのこと】がルワンダを訪問し,生き残った人々に許しを求めた。この政治家たちは『二度とこのようなことは起こさない』と約束した。しかし,同じことがまたスーダンで起きている。あるいはコンゴでも起きている。人命が土ほどの価値もない場所で同じことが起きている」と監督のテリー・ジョージは語る。
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戦争は常に,英雄を出現させ,ごく普通の人たちによる英雄的行為を陸続と出現させてきた。ルワンダも例外ではなかった。例えば,この映画の主役である一般市民のポールは,流血とカオスの中,愛と思いやりの心から,1268人の人々を救った。
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監督のテリー・ジョージはアフリカを舞台にした映画を制作したいと長く考えてきたが,ポールの話を聞いてついに映画制作を開始した。「共同で脚本を書いたキール・ペアソンから話を聞き,やりたいと思った。すぐにベルギーに飛んでポールと会い,話を聞いた。」映画プロデューサーのアレックス・ホーもまた,この話の人間的な点に共感した。「ごく普通の人が,他の人々を助けるために自分の立場を使うことができる――これがこの物語の核心です。その行為を為す上で,本人もまた自身をより高めてゆくのです。」
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※原文にはキリスト教の価値観が強く感じられますが,キリスト教文化圏に向けて映画をPRしている文章である以上は,特に奇異なことではありません。


AN UNLIKELY HEROは,映画の主役となったポール(Paul Rusesabagina)についての記述。ジェノサイドの後,ルワンダを後にしてベルギーに暮らしていたポールのことを映画制作者たちが耳にし,監督が彼を訪ねていって直接話を聞いたことから映画制作が始まったこと,ポールと制作者チームがルワンダを訪ねたこと(Homage to a Brave Man)や,主演のドン・チードルや妻役のソフィー・オコネドー,ジャーナリストのホアキン・フェニックス,国連PKFの大佐役のニック・ノルティのインタビュー記事(Stepping into Character)が読めます。Director's Commentaryは監督のコメントの動画。ポールと会ったことについてのほか,「政治的なことを描くより,ひとりの人間を描くことを重視した」「ルワンダの状況を西洋のコンテクストに組み込んだ」といったことが説明されています。

BIOGRAPHIESはキャスティングについての説明と,キャスト・スタッフの紹介。(Stepping into CharacterはAN UNLIKELY HEROのところに掲載されているのと同じです。)

INSPIRATIONは,映画についての監督のStatementとComment(動画)です。
これは語られなければならない物語です。恥ずべきことに私たちがずっと何も知らずにいた出来事の中に,世界中で映画館に足を運ぶ人々を連れて行く物語です。しかしそれ以上に,この物語は,私たちの誰であってもおかしくないようなひとりの男性の愛と喪失,恐怖と勇気とを――私たちに彼のような勇気がありさえすれば,彼の経験は誰のものにもなりえます――映画を見る人にも体験させてくれるものなのです。
hotelrwanda.com> INSPPIRATION > Director's Statementより。


FACTSは充実した資料集です。「ツチ族とフツ族の間の部族間紛争」が実際にどのようなものであったのかを知るために極めて有用です。特にRwandan Radio Announcements(オランダのRadio Netherlands記事へのリンク)は必読。映画冒頭のラジオ音声を流したラジオ局RTLM(煽動目的の放送を行なったhate radio)の設立者についての記事です。この設立者のひとり,Jean Bosco Barayagwizaはタンザニアに設置されている国際法廷で3年以上の審理を経て2003年12月に懲役35年の判決を受け,控訴手続き中とのことですが,2004年4月に火事が発生し,1994年のジェノサイドで裁かれている被告たちの書類や音声テープが焼失したとのこと。


GET INVOLVEDはメッセージボード(どうやったら閲覧できるのかわからない……)や国連基金へのリンク,参考資料集(ウェブサイト&書籍)など。

というわけで,「多くの人命を救った,ごく普通の人物のヒロイックな行為」の物語として見ることも十二分に可能な映画かもしれませんが,ルワンダという国について少しでも歴史的な知識があれば,ずっと見え方が違ってくるのではないかと思います。

しかし,ルワンダについての情報は,日本では乏しいです。Books.or.jpの検索結果は13件ですが,うち8件はどう見ても関係のなさそうな書籍のタイトルです。amazon.co.jpで検索しても10件しかありません。「全国の大学図書館等が所蔵する図書・雑誌の総合目録データベース」であるNACSIS Webcatでも,「ルワンダ」の検索結果は19件しかありません。

また,書籍で検索ヒットしたもののほとんどすべてが,1994年のジェノサイドについて,および/またはその後の人道支援活動についてのもので,「ルワンダの歴史」についてのまとまった書籍はなさそうです。

というわけで,ネットですね。

公開を求める署名活動が始まったところですから,公開までにはまだ時間があります。私もその時間を使って,少しでも調べてみようと思っています。
posted by nofrills at 22:17| 雑多に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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