2006年05月07日

内閣改造の意味を深読みする――本編。

というわけで、英国の外交からジャック・ストローが外された件について。

先月、シーモア・ハーシュが『ニューヨーカー』で「ブッシュ政権はイランを核攻撃する」と書いた(→その記事@truthout)とき、ジャック・ストローは「イランを核攻撃するなどまったく正気の沙汰ではない("completely nuts")」と述べた。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/04/09/ustraw09.xml

その前から、ストローはイラン攻撃に極めて否定的(「慎重派」以上)だった。さっと見つかるところで、例えば4月2日のテレグラフが英国政府(国防省など)内部でイラン攻撃についての話し合いがもたれたことを報じているが、その記事内で「前月、ストロー外相はイラン攻撃は想像もできないこと("inconceivable")と述べた」とある。(元記事もちょっと探せばすぐ見つかるが省略。)

そういう外務大臣が、英国の外交からいなくなった。「地方選大敗を受けての内閣改造」のドサクサにまぎれて。BBCの政治部のベテラン、ポール・レイノルズの解説:
Foreign doubts after Straw's exit
By Paul Reynolds
World Affairs correspondent, BBC News website
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/4979674.stm

ガーディアン外交部エディター、ユアン・マカスキルの解説:
Iran is the key to Jack Straw's demotion
May 5, 2006 03:15 PM
http://commentisfree.guardian.co.uk/ewen_macaskill/2006/05/post_69.html

この2つを読んだ気分は、ひたすら「orz」でしかない。

BBCのレイノルズ記事より、要点。

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ストローが去ったことは英国の政府官僚にも驚きであったが、米国をはじめ各国にとっても驚きであった。特に米国のライス国務長官とは、互いに地元を訪問するなど相互理解と関係強化に努めてきていた。(「それなのに突然ストローはいなくなった。議院内閣制とはどういうものか、アメリカ人には痛い教訓になったのでは」とレイノルズは書いているが、このカギカッコ内はどうでもいい。なお、ガーディアンのマカスキルはこれについて、しっかりと、マニング補佐官とライス補佐官(当時)の固い関係のことを書いている。)

月曜日(9日)にニューヨークで、安保理常任理事国+ドイツの外相の会合がある。議題はイランにウラン濃縮の停止を求める決議のドラフトで、これを準備するのが英国。参加者はみな、英国からは経験豊富なジャック・ストローを迎えるつもりでいたし、ジャック・ストローもドラフトには自信を持っていた。

ストローはイランの核計画を止めようとしてきた。まずは要求を出すことで、それでダメなら経済制裁で、核計画を止めようとしてきた。しかし軍事攻撃には反対している。実際ストローは記者団に対し、「イラン攻撃は国連憲章第51条(自衛戦争を認める)でジャスティファイされない」との考えを述べていた。

ストローが去ったことを、ブレアが軍事攻撃の意を固めたしるしであると読み解く向きもあるが、そうなのかどうかは現状ではまだわからない。しかしブレアが、相手が調子に乗らないようにという理由で、軍事攻撃の可能性を否定しようとする姿勢を見せなくなってきていることは事実だ。

また、ストローが去ったことは、英国の外交政策についてブレアがより大きなコントロールを握ったということを意味する。
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例によってレイノルズらしい、淡々とした記述だが、行間はいくらでも読める。(この人がこういう記事を書かなくなるときは、政府の方針でごにょごにょになってるときだ。2004年4月と11月のファルージャ攻撃のときの記事のように。)

ガーディアンのマカスキルは、感情を一切出さないレイノルズと比べると驚くほど直情的に見える。第一文が、The key to the demotion of Jack Straw from foreign secretary is Iran. である。そして何より不吉なのが、
He (=Tony Blair) regards the threat posed by Iran as the most serious in the world today, and is even more messianic on the issue than George Bush. That does not mean that a military strike will happen but Mr Blair, like Mr Bush, thinks it is a good idea to keep the option on the table, if only to keep Iran guessing.


even more messianic than George Bushって・・・(^^;) あと、「即軍事攻撃というわけではないかもしれないが、少なくともそのカードは引っ込めずにおいて、ゆさぶりをかけることはするだろう」っていうのは、どこかの「瀬戸際外交」の手法(最近聞きませんね、このフレーズ)も思い出させるし、何より、冷戦期のモデルそのものじゃないかと思うんだが。

それから:
Downing Street phoned the Foreign Office several times to ask Mr Straw to stop being so categoric in ruling out a military strike. And the White House also phoned Downing Street to ask why Mr Straw kept saying these things. And that was before Mr Straw dismissed as "nuts" the prospect of a tactical nuclear strike on Iran, an option that Mr Bush subsequently refused to remove from the table.


つまり、ストローは英首相官邸からもホワイトハウスからも、軍事攻撃の可能性について、ないと断言するようなことはするなと釘をさされていた。しかしそれでも彼は、シーモア・ハーシュの記事の後に「核攻撃計画」についてnutsという非常に強い表現で切り捨てていた。

マカスキルはこれの前のほうで「(今回外交から外されなくても)イランへの攻撃開始でストローは辞任することになっただろう」とかいうことを書いているが、それはつまり、ジャック・ストローが英国の外交政策でどれほどの重石になっていたか、ということだ。

ストローがイラク攻撃をむちゃくちゃな法解釈で正当化した(理由付けした)とき、私は心底がっかりした。コソヴォ空爆を正当化した(しかし国連決議なきイラク攻撃には断固としてノーと言った)ロビン・クックのことを懐かしく思ったりもした。

イラク攻撃を正当化したストローを懐かしく思うようになる、などという日が来ないことを、ただ祈るばかりである。

なお、マカスキルもイラクについては半ば投げやりと言ってもいいくらいのことを書いている。(「外務省には何もできることはない。すべてはイラク政府と反乱者にかかっている。英国も米国と同様に、年内にも撤退を開始できることを願っている」blah blah blah。これは英国伝統の必殺技、「俺らにできることはないんで、あとはあちらの問題なんで」である。)

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イランに対しては英国は昨年後半からかなりのプレッシャーをかけてきた。いわく、イラン南部のシーア派武装組織はイランに援助されている、バスラの路肩爆弾などIEDはイランから来ている、など。

(中には「IRAの爆弾がバスラで」とかいう「反IRA」の報道@インディペンデントもあった。話としては、IRAに潜入工作していた英国のスパイが作り方を教えた爆弾と同じ種類の爆弾が、バスラで使われていたということ。この頃からなんだよね、イランに対する情勢が目だってキナくさくなってきたのは。インディペンデントが「IRAの爆弾」と書いたってことは、「IRAのテロ」を経験している英国国内の世論に訴えることが目的だったんだろうけれど、その後IRA内部で英国諜報スパイとして活動していた人たちが発言したり告白したり、さらには何者かに殺されたりして、IRAの内部で英国が何をしていたのかがわかってきているし、「IRAの爆弾」といえばぶわーっと世論が動く、ということはなかったんだろう、この報道、単発で消えた。。。)

今年に入り、一瞬ブッシュ政権が「IEDが脅威」とか言い出したとかいう報道(@アルジャジーラ・ドット・コム:あの「アルジャジーラ」ではない、UAEのアルジャジーラ)があったので私は泡を食ったのだが(彼らが「脅威」というのは、「大量破壊兵器」と同じように脅威である、ということだから)、んなストーリー(と自然にキーを打っているんだがこれはほんとに「ストーリー」だなあ)がもし仮に実在するとしても、“国内”で住宅街で肥料爆弾250ポンド(金額ではなく重量)とかいうことがある英国が買うはずがない。それ以前に、英国であれ米国であれ、情報機関や軍事筋が「それは無理」って言うだろうし。

でもとにかくこの件は、「サダムの大量破壊兵器」が米英政府の脳内にしか存在していなかったように、「何が『脅威』とされるか予測がつかない」という点では案外的外れでもないかもしれないと思っている。(ほんとに「イラク駐留米英軍に対するIEDが脅威なのでイランを爆撃」というところまで行ったら・・・どうしよう。)

ちなみに、「イランがイラクで煽動」とか「イラン製の爆弾がイラクで」説については、ラム爺が「証拠はある」と言いつつ具体的なことは何も言わない+ブッシュが「路肩爆弾にイラン製の部品が」と発言、ということがあったが、米軍の統合参謀長はそれらについてイラン政府に責任があるとの証拠は一切ないと述べている。それが今年3月。(情報戦ですな。この後、米軍内部というか元軍人たちから次々と「ラムズフェルドは辞任すべき」発言があったわけですが。)
http://www.boston.com/news/nation/washington/articles/2006/03/14/
us_general_says_no_proof_iran_behind_iraq_arms/

「壊れる前に・・・」さん、2006.03.16経由)
posted by nofrills at 20:30| todays_news_from_uk/reshuffle2006 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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