2005年08月25日

「パット」という名のこの男。

いよいよ台風が来たようで,うちの屋根を通して上空でごおぉごおぉと風が鳴ったかと思うと,豪雨の音がしてきました。

それとはまったく関係なく……。

「パット」Patという男性名は,「パトリック」Patrickの愛称として知られている。「パトリック」は5世紀(だったと思う)にアイルランドにキリスト教を広めた人の名で,「パトリック」と言えばアイリッシュ,という固定イメージがある(もうひとつの愛称である「パディ」Paddyという名をつけたアイリッシュ・パブがよくある,など)。

でも,米国で“テレヴァンジェリスト(テレビ伝導師)”としてぶいぶいいわせている「パット・ロバートソン」氏の「パット」は「パトリック」じゃないんだって。
At a young age he was given his nickname of Pat by his six-year-old brother, ..., who enjoyed patting him on the cheeks when he was a baby and saying "pat, pat, pat".


「パット・ロバートソン」,本名は「マリオン・ゴードン・ロバートソン」Marion Gordon Robertson――「マリオン」はラテン語系。「ゴードン」は元はスコティッシュの名前ですね。「ロバートソン」もスコットランドのクランの名のひとつとして知られているもの。(<これは,“「オブライエン」や「オニール」はアイリッシュ”とかいうような一般論ですが。)

名前がどうこうって話をしたいわけではないんですが,何かおもしろかったので。

なお,本名があるのに「パット」という名を選択したのは,「マリオン」は女みたいだし「ゴードン」は気取った感じがするからだそうです。

Wikipediaによると,パット・ロバートソンはアメリカ独立宣言に署名したヴァージニア知事の家系で,この家系には第9代大統領とか第23代大統領もおり,ウィンストン・チャーチルとの血縁もあるそうです。一言で言えば,「WASP」ですね。

このパット・ロバートソン,つい先日(米国時間で8月22日),自身のテレビ番組で,ベネズエラのチャベス大統領の「暗殺」を呼びかけるということをやってくれたそうです。
「米国・福音派右派説教師、ベネズエラ大統領暗殺を呼びかけ」(P-navi infoさん,2005年8月24日)

で,この「暗殺」発言について本人が謝罪したという記事(AP通信配信)が,25日(英国時間)のガーディアンに出ていたんです。Robertson Apologizes for Chavez Remarks
Thursday August 25, 2005 9:16 AM
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,1280,-5232402,00.html
Religious broadcaster Pat Robertson apologized Wednesday for calling for the assassination of Venezuelan President Hugo Chavez, only hours after he denied saying Chavez should be killed.
_
"Is it right to call for assassination?" Robertson said. "No, and I apologize for that statement. I spoke in frustration that we should accommodate the man who thinks the U.S. is out to kill him."


当初「私は『暗殺』とは言っていない。『外に出せ(take him out)』と言ったのだ。take him outにはいろいろある。『暗殺』などとはAPの誤報だ」と言っていたのを覆して,「フラストレーションがたまっていた中での発言で『暗殺』と言った。お詫びします」と述べた,というのが大筋。

※本筋とはあまり関係ありませんが,AP記事にあるReligious broadcaster(宗教的放送者)というのは,パット・ロバートソン本人が「私を“テレヴァンジェリスト”と呼ばないでほしい」として,自らこのように名乗っている肩書きであるようです。(参考:Wikipedia

で,この「謝罪」の正体というのが……ま,ロバートソンの「謝罪」のステートメント現物を見てください。
http://www.cbn.com/about/pressrelease_hugochavez.asp

要約すれば,「暗殺」という言葉を使ったのは悪かった,と言っているだけで,同じ「謝罪ステートメント」の中でまたもやチャベス大統領をサダムやヒトラーになぞらえたりと,発言の趣旨は同じです。

Wikipediaによると,この「謝罪」は文章化されたもの(he issued a written statement apologizing for using the word "assassination".)だそうですが,しゃべっているのを書き起こしたものに見えます。というかそうとしか見えません。

この「謝罪」におけるパット・ロバートソンの発言で何が笑えるって,「アメリカを脅かすもの」が幕の内弁当みたいに並べられているところかな。ただし日本的な「おかずの味が移らないように」の仕切りなく,エッグ,ベイコン,トマト,ビーンズ&スパム・スパム・スパム(笑)みたいに,互いが混ざり合うことも一切意に介さず並べられている。俺が一緒くたにしたんじゃない,食べる奴が勝手に混ぜたんだ,ってね。

何でも並べればいいってもんじゃないでしょって思うんですけどね。そのうちに「共産主義の中国がベネズエラと組んでイスラム原理主義をはびこらせて我々を襲う」とか言い出すんじゃないだろうか,とか。現状,中国とはおともだちらしいんですけれどね。(And he wasn't supposed to mention China. His fellow evangelists are none too happy about his contacts with Zhu Rongi, the communist dictator who gleefully jails Christian ministers.

しかしロバートソンの詰め込み具合は,“この人を北アイルランドに移植すればこうなります”的存在であるイアン・ペイズリーの単品主義(? もしくは「モテOLの着まわしテク」)とは絶妙なコントラスト。(<ペイズリーは何に際しても同じことしか言わないからね。(^^;)

(ペイズリーはDUP党首だが,同時にファンダメンタルなクリスチャン。「フリー・プレスビテリアン」という新興の宗派を1950年代に立ち上げて「カトリックをぶっ殺せ」なイデオロギーを煽り,「自衛」の名で暴力を行使することも制さず,1969年のIRAの分派=OfficialとProvosへの分派の遠因を作った,つまり今のシン・フェイン党をここに存在せしめている張本人たちのひとりにして,シン・フェインをつぶすことしか考えていない。ただし北アイルランドのセクタリアン暴力は,DUPだけに責任があるわけではない。)

パット・ロバートソンの頭の中と,イアン・ペイズリーの頭の中に,あんまり違いはないと思う。

違うのは,パット・ロバートソンは「国際関係」で最大の影響力を持つアメリカ合衆国という国の右翼であり,イアン・ペイズリーは「国際関係」にはほとんど影響力のない北アイルランドという場所(?こういうとき何て表現したらいいんだろうね,NIは)の右翼である,ということ。ペイズリーの名前が「国際舞台」で語られることはめったにない。

彼らの発言から知ることができる範囲において,ロバートソンの「敵」は「共産主義」であり「イスラム原理主義」であり,より直截的には「石油権益を脅かす者」であるが,ペイズリーの「敵」は「(人口増加のペースがはやいので自分たちの優位を脅かす)カトリック」であり「カトリックに支配されるアイルランド」である。(ペイズリーの「敵」はまだほかにもあるかもしれないけど。)

両者ともに「我々にとって○○は脅威である。ゆえに我々は○○を殺さなければならない(殺すべきである)」という考えで発言する。

両者ともに,「宗教」を利用している。

というわけで両者の名前を並べて検索してみたら出てきたのが,グレッグ・パラストが1999年にオブザーヴァーに書いた記事(今回の「暗殺」騒動で再掲されている)。『金で買えるアメリカ民主主義』に収録されているんではないかと思う。

パット・ロバートソンがスコットランド銀行の米国の窓口のトップになったときの記事。書き出しは:
It's time someone told you the truth. There is an Invisible Cord that can be traced from the European bankers who ordered the assassination of President Lincoln, to Karl Marx, to the British bankers who funded the Soviet KGB. They are members of the 'tightly knit cabal whose goal is nothing less than a new order for the human race under the domination of Lucifer'.
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If you don't know about the Invisible Cord, then you have not read New World Order by Dr Marion 'Pat' Robertson. This is the same Pat Robertson that the Bank of Scotland recently named chairman of its new American consumer-bank holding company. Interestingly, the Scottish bank's biography of Robertson failed to mention New World Order, the 1991 bestseller that the Wall Street Journal, in a mean-spirited review, described as written by 'a paranoid pinhead with a deep distrust of democracy'.


a paranoid pinhead……WSJのレビューはこれ以上こき下ろせないところまでこき下ろしてたんでしょうね。実際その評は当たってると思うけど――「チャベスを暗殺」発言で,パット・ロバートソンは,ベネズエラが「イスラム原理主義の拠点になる」と言っていたんだけど,ベネズエラって人口の99%がキリスト教徒なんだよね。(^^;)

ま,「利益のためなら信仰も主義主張もいくらでも変えます」ってのが当たり前の中に自身が身を置いているから(パラスト記事によると,移動中はバイブルじゃなく経済新聞や投資ジャーナルを熱心に読んでいるとか),ベネズエラのキリスト教徒がイスラム原理主義を支援,なんてことが簡単に想像できちゃうんでしょう。想像ってより妄想だと思いますけどね。そのうちに「コソヴォのセルビア人がイスラム原理主義を」とか言い出しかねない勢いの妄想。(実際にそう言ったらさすがにトンデモになるけど,それでも真に受ける人が少なくないかもしれない。恐ろしいわね。)

その後,ロバートソンとは何者かについて長い記述をはさんで,最後が:
Yet Robertson's choice of the Bank of Scotland as partner is surprising because, until this year, he boasted of his English, not Scottish, heritage.
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Moreover, in New World Order, he singled out as the apotheosis of Satan's plan for world domination the British-chartered central banks conceived by Scottish banker William Paterson.
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In the book Robertson explains that Rothschild interests carried on the Paterson plan, financing diamond mines in Africa which, in turn, funded the 'satanic' secret English Round Table directed by Lord Milner, 'one-time editor' of The Observer. (Ah-ha!)
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Furthermore, the Scottish banker's charter became the pattern for the US Federal Reserve Board, a 'diabolic' agency created and nurtured by the US Senate Finance Committee, whose chairman was the 'Money Trust's' dependable friend, Senator A. Willis Robertson - Pat Robertson's father.
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Are you following this? That's right. Pat is the scion of the New World Order, who gave up its boundless privileges to denounce it.
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Or did he? As I drove away from the chapel/TV studio/ university/ ministry/banking complex, I realised I, too, had a vision of an Invisible Cord that went from Scottish bankers to African diamonds to the Senate Finance Committee to Christian conservatives to the communist dictators to the World Wide Web...


これ書いてるグレッグ・パラスト,かなり楽しそうですね。でも元の本であるNWOを書いたロバートソンが一番楽しそうです。頭の中がお花畑だったのかもね。どんなお花が咲いてたのか知らないけど。

最後のパラグラフにあるthe chapel/TV studio/ university/ ministry/banking complexっていうのが,「パット・ロバートソンとは何者なのか」を端的に表してると思います。

聖書じゃなく投資ジャーナルを愛読しているというパット・ロバートソンが,自身をどう見せているかについて,グレッグ・パラストの記事に非常に簡潔な表現があるので引用しておきます。ロバートソンのビジネスパートナーだった人の発言。
'These people believe he has a hot-line to God.'
「これらの人々(=パット・ロバートソンを信じている人々)は,彼には神への直通回路があると信じている。」


うひゃ〜。(以下略)

※パラストの記事にはペイズリーのことは直接は書かれていません。オブザーヴァーは英国の新聞だから,グレッグ・パラストはこの記事で,英国の人たちにわかりやすくなるように,It may seem a bit odd for the Bank of Scotland to choose as its spokesman a man who has been compared to Ian Paisley.(スコットランド銀行がイアン・ペイズリーに喩えられたことのある人物を選ぶなんてと思われるかもしれない)と書いている。そのためにこの記事が,「両者の名前を並べて検索」でヒットしたという次第。
posted by nofrills at 23:47| i_dont_think_i_am_a_pacifist/words_at_war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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