2004年03月01日

音楽,アイデンティティ,国家〜映画『わが故郷の歌』。

岩波ホールで上映中の映画,『わが故郷の歌』を見てきた。映画を見るときはなるべく情報を入れないで行くことにしているので,この映画については「クルド人の話」「クルド語の映画(珍しい)」「音楽がたくさん出てくる」という程度しか知らずに見た。

画面を見ながら唖然としたのは,ある場面でアップで何度も登場する男の子のまつげ。長い。長すぎる。それも濃い。こんなに長くて密集してたら重いのではないか。まぶたが疲れそうだ。でもきれいだ。

イラン・イラク戦争直後らしい。戦争は終わっているのにイラク軍の飛行機は飛び,クルド人の集落を爆撃する。イラン領内からイラク領内への旅……というより,これは3バカトリオの珍道中だ。いきなり恋をしたり,追いはぎに会ったりと忙しい。

それにやかましい。クルド語がやかましいのか,俳優の演技のせいなのか,それとも声の質のせいなのか,私にはさっぱりわからないが,とにかくやかましい。あと,よく動く。手を動かさずに喋れと言われたら,この人たちはどうするんだろう。(以前見た何かのギャグで,「イタリア人を黙らせるにはどうしたらよいか」というのがあった……「両手を縛って動かないようにする」が正解。んな感じ。)

服装がおもしろい。アラビアン・ナイトの絵本で見たアリババはこういう服を着ていたなぁと思う。風景は山岳地帯,破壊された村,テント村。冒頭で日干しレンガ造り。あの力仕事は女性の仕事なのか。美人ばかり出てくる。映画だからというわけではないだろう。テント村の荷物にhennaの段ボールがあったりする。女性の眉毛。きれいに描いているように見えた。撮影はおそらく自然光のみ。写されたものの裏に,写されていないものがある。お祈りも出てこない。テント村には犬の声はするが姿は見えない。

何度か,サダム・フセインについてのコメントが出てくる。書くとネタバレになるので書かない。やけに即物的なじいさんの語るサダム像がおもしろい。

主役のミルザの顔がよい。

主役の3人はクルド人のミュージシャンで,劇中何度もクルドの音楽が奏でられる。字幕にある歌詞の内容はかなりものすごいのだが,音楽そのものはそれと違った意味でものすごい。あのテンポ/リズム/ヴァイヴ。テクノ/ハウスのあれが,生身から出されている。

そういえば以前,『踊れ!グローズヌイ』というドキュメンタリーを見たのだった。オランダの映像作家がグローズヌイの少年少女舞踊団の欧州ツアーを追ったドキュメンタリー。チェチェンの音楽と踊り。踊りの高度な技術と美麗な振りつけは本当にすごいものだったが,それに負けず劣らず,音楽がすごかった。それもやはりこのテンポ/リズム/ヴァイヴ。

『わが故郷の歌』のクルドの音楽と,『踊れ!グローズヌイ』のチェチェンの音楽。国家を持ったことのないクルド人と,独立国家となることが「ロシア帝国」によってできなくなっているチェチェン人。どちらの音楽も,「アイデンティティ;私が〜であること」を確認するためのよりどころのひとつなのだろう。西洋化された東洋人である私の耳にはわからない,歴然たる違いも,両者の間にはあるのかもしれない。(欧米には中国と日本の区別がつかない人が少なくないが,それは責められないのだ。「違い」に対する感覚が開かれていないのだから。)

というところで,ふと思う。『踊れ!グローズヌイ』を見た帰りにもふと考えたことだ。私が日本人であることを確認できる音楽はあるだろうか? 

ない。子供の頃は琴ではなくピアノを習った。日本の音楽ではなく,ドイツやフランスの音楽に親しんだ。長じてからは西洋のロックだのテクノだのが多い。日本人ミュージシャンの音楽も聴くが,それも西洋流だ。(それでも欧米の人は彼らの音を「どこか違う」と言う。それは私には認識できない。) 演歌は「演歌」として認識するが,それはシャンソンを「シャンソン」と認識するのに似ていて,それを聞いて自分のアイデンティティを感じたりはしない。津軽三味線や和太鼓はカッコイイとは思うが,アイデンティティは感じない。あんな音が出せるのはすごいなぁと思うばかりだ。

さて,私のアイデンティティの音楽とは何だ。私はそんなものは持っていないのかもしれない。自分で音楽をやらないからかもしれない。

なんてことをネットラジオでテクノを聞きつつ書いている。

民族の共通体験としての音楽……んなことはこれらの映画を見るまでは考えたこともなかった。

さて,パレスチナには音楽があるのだろうか。映画『イン・ディス・ワールド』ではペシャワールのアフガン難民キャンプに音楽が流れていた。

まだ知りたいことがある。
posted by nofrills at 18:05| i_dont_think_i_am_a_pacifist/words_at_war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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