2004年10月28日

「旅行」が不可能であること。

仮に私が今日バグダードのメル友に「来月そっちに遊びに行くね」とメールをしたら,「来るな」と言われるだろう。

まずは拉致拘束されている人の無事を祈る。テレビや新聞が報じているように「旅行目的」でイラクに行ったのだとすれば,その判断は非常に疑問だけれど,それでもなおかつ,無事を祈るほかはない。(それは,先日殺害されたビグリーさんが拉致されたときに感じた気持ちと,ほんの少しだけだけれど,重なっている部分もある。CAREのマーガレット・ハッサンさんをはじめとする方々の拉致に対する気持ちとは,別次元にある。)

今日の夕方にBBC記事を読んだけれど,Yahoo JAPANトピックスでわかる以上の情報はなかった。

日本語で読める記事には「イラクを見たい」「旅行する」と話していたということが書かれている。また,夜のニュースでは,「行けば何とかなる」と言っていた,とも。ヨルダンのホテルの人も,ヨルダンでご本人と会った映画監督の方(日本人)も,「危険だから」と制止したという。

ふと,自分のやってきたこと――個人としてほそぼそと小さなことをしてきただけであるが――は何だったんだろう,と思う。地元の住民たちによるものだった4月の3人拉致と2人拉致とは異なり,今回は「アブ・ムサブ・アル=ザルカウィ」という人物の組織(名称は「タウヒード・ワ・ジハード」改め「イラクの聖戦アルカイダ」だそうだが)が拉致したようだ。

今回の日本国籍の人が拉致された場所とかはわかっていないとのことだが,「ザルカウィ」の組織の犯行であるというのが本当だとしたら,現在激しい攻撃がなされているバグダードから西や北,ファルージャやラマディ,サマラといった地域と何らかの関係はあるだろう――「ザルカウィ」がファルージャにいるのかどうか,ファルージャで戦っているのが「ザルカウィ支持者」なのかどうかは,この4月以降の流れを考えると,私としては疑問ではあるのだが,例えば記憶に新しいところで8月のナジャフでのサドル派の「政治的かけ引き」を考慮すると,少なくとも,「ザルカウィ」が何らかの形で「ファルージャ」を利用していることは,ありうるのではないかと思っている。むろん,サドル師の「かけ引き」と,「ザルカウィ」のやってることは,性質が違うとは思うが……。

「ザルカウィ」なる人物がやろうとしていることが何なのかは私にはわかるはずもないのだけれど,これまでのところ,彼の組織の犯行と言われるもののほとんどは,アラブ人以外の外国人すべてと,アラブ人であっても米英連合に協力する(と彼らがみなす)人物を標的としている。(先般解放されたイタリア人支援活動家2人とイラク人通訳・技術者の4人を拉致したのは,「ザルカウィ・グループ」ではないんじゃないかと私は思っている。)

私はこの4月以降,ファルージャについて,ごく細々とではあるけれど,日本語で伝えることをしてきた。だが,4月に頻発した外国人拘束と,米国人ニック・バーグさんの殺害以降,主にバグダードやその西および北で起きていること(説明のためには「スンニ・トライアングル」と言うのがよいかもしれない)とは異なる,ということを,もっとはっきり伝えるようにすべきではなかったか? 私はある種の小さな自責の念に囚われている。

もし,この文章を読んでいる方で「とにかくイラクを見たい」とお考えの方がいらっしゃったら,今はその時期ではない,と申し上げたい。入手可能な限りの情報から判断して,今は「イラクを見る」ために適切な時期ではない。私はそう考えている。

むろん,「見る」ことのほかに目的があり,かつ,これまでにその活動をされている方であれば,話は別だろう。だが,今は,外務省に言われなくても,「旅行」が可能な時期ではない。

それは,例えばロンドンのような「安全」な都市であっても,様子のわからないところを暗くなってからひとりでは歩かないとかいったことと同様の,バックパッカーであれパックツアー客であれすべての旅行者にとって共通する判断基準だと私は思う。

自分の目でイラクを見たい,それは私も思っている。メールをやり取りしたりしてて,実際に会ってみたい人たちもいる。だが,そこには大きなリスクがあり,そのリスクが自分で引き受けられるものではない以上(「みなさまにご迷惑を」ということではなく,「日本国籍である」というだけで標的になる可能性がますます高まっている以上),アラビア語も理解できず,危機に対応する方法も何も知らない私が,仮にバグダードに行ったとしても,彼らにおんぶにだっこになってしまうことはあまりに明白で,つまり,「彼らに世話をかける」ことはわかりきっている。だから私は今はイラクに行こうとは思わない。

むろん,お金がないとか時間がないといった,非常に現実的な問題もある。だがそれ以上に,私はバグダードにいる人たちのことを,メールやウェブログ経由だけであるにしても「知って」いるからこそ,行こうとは思わないのだ。彼らの毎日がいかなるものかを,彼らの書いたことから知ることができ,そこに自分が行くことで何か解決したり進展したりするとは,とても思えないから。私が見たからといって,だからどうなのだ,と思うから。

もし私に医療や人道支援の知識や経験があれば,あるいは私が報道に携わっているのならば,別の考えを抱いていたかもしれない。

けれどもそうではない。私が行っても,何にも寄与しない。私は自分の目で見ることを求める代わりに,自分の目で読み,自分に備わっている知識を使って読んだものを私が使うことのできる別の言語にし,そのほか確実に自分の力でできると判断できることをする。

繰り返しになるが,私がイラクに行こうと思わないのは「国に迷惑をかけたくない」からではなく,「世間を騒がせたくない」からでもない。そこでは私は何ら役立たないからであり,ひょっとしたら私が迷惑をかけたくないイラクの特定の人々に具体的な迷惑をかけてしまうからだ。(具体的ってのは,例えば食事のこととか寝る場所のこととかね。)


それから,「イラクがいかに危険であるか」について。

あまりに「危険だ危険だ」と言うのは,そこに現に暮らしている人たちにちょっと失礼にもなるのだが,外国人が標的となっている現実があるのだから,いかに危険であるかについては,どんなに閲覧者の少ない場所であっても書いておく必要があるように自分で思うから,書く。

ファルージャが4月に米軍に包囲され,空中から爆撃され,街のあちこちに米海兵隊のスナイパーが配備されていた時期に,バグダードから医療物資などを届けた英国人女性のジョー・ワイルディングさんは,4月には「私たち西洋人の風貌が弾除けになる」ということを書いている。当時は,西洋人の風貌は盾になっていた。それは,攻撃する側が西洋人(米軍)だったからだ。(同時に,彼女と行動をともにした米国人は,「民族的ルーツが南アジア系の自分は,バグダードの街を歩いていても目立たず,それゆえに標的にならない」と述べているが。)

ワイルディングさんは,広義では「人道支援をしてきた人」だが,より正確には「サーカスの人」だ――「子どもたちをhappyにするためのサーカス」の一員として,戦争/紛争で子どもたちが笑顔を失ってしまっている地域に行き,そこで子どもたちと遊びながら,その他の支援活動もしてきた。ファルージャでの物資輸送と負傷者の救出活動だけでなく,バグダードの貧困エリアで下水溝を作った実績もある。

そのワイルディングさんでさえ,この10月13日に自身のウェブログで「私たちのサーカスはイラク中部には戻れない」と判断したことを記している。

派兵していないフランスの人たち(ジャーナリスト2人)でさえ拉致拘束されたままだ。さらに,イラク人と結婚してイラク国籍を持ってイラクに住んで数十年にもなる英国(二重国籍)の支援活動家でさえも,拉致拘束され,脅迫映像が流されている。派兵している国のひとつである日本の国籍を有する人間が,「自分の目で見たい」という理由で行ける時期ではない。

その上で,「なぜ日本国籍を有するだけで標的になりうるのか」を考えることは,どこにいたってできる。(ま,フランスの例にあるように,標的になっているのは派兵国だけではないのだが,そこらへんの彼ら=拉致実行犯のロジックは,私にもさっぱりわからない。そもそも誰が拉致したんだかもわからない。だって記事がほとんどことごとくis believed to beだとかis thought to beだとかいう調子なんだから。)

そして,なぜ今になっても私たちはメソポタミアに旅行することができないのか――それが少し前までの米国のような,「経済制裁のため渡航禁止」といった,誰がどう見ても100%政治的な理由ではなく,テレビのニュースで繰り返される言い方を借りれば「治安の回復が遅れているため」という理由なのはなぜなのか。

2001年9月,東京で見てたテレビのニュースで,アメリカのどこかの都市の市民が,「私たちの旅行の自由はどこに行ったの?」と言っていたのを思い出す。「あのテロのおかげで,私たちは自由に旅行することもできなくなってしまったのよ」と――彼女は米国内の移動がかつてのようにスムーズに行かなくなっていたことを,「旅行の自由がなくなった」と憤っていた。

アフガンが爆撃される直前のことだった。

-------

この文章には続きのようなものもあります。

-------

なお,私の腱鞘炎は段々よくなってきてはいますが,まだ完全に治っていなくてテーピングが外せてないので,コメントへのレスはもうしばらくお休みさせてください。
posted by nofrills at 02:08| voices_from_iraq | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。