2005年05月16日

「オペレーション・マタドール」という名の破壊が現在行なわれているのにそれはほとんど報道さえされていない。

15日のサンデー・タイムズ,「ザルカウィが重傷でラマディの病院に」の記事の件。長くなったので別エントリにすることにした。

はっきり書くが,「ザルカウィが」なんてことは私にとっては実はどうでもいい。本当に語られるべきは「ザルカウィが」ではなく,現在進行中の「オペレーション・マタドール」じゃないのか,というのが私の考えだ。それが前提。

ともあれ,サンデー・タイムズの記事に書かれているのは,5W1Hで分類すると:
When:2005年5月第2週の水曜日に(5月15日の時点でのlast weekは,5月8〜14日)
Where:ラマディで
Who:ザルカウィが
What:重傷を負って総合病院に来た
Why:?
How:……

以下,1つづつ見ていこう。When:2005年5月第2週の水曜日に
「2005年5月第2週」は,ブッシュが「大規模戦闘終結」を宣言してから2年以上が経過した時点であり,CPAから「イラク暫定政府」への「主権移譲」が為されてから10ヶ月くらい経過した時点であり,「民主的選挙」から3ヶ月と少し後であり,ダアワ党のジャファリを首相とする「移行政府」が発足してだいたい10日くらいであり,イラク各地で「爆弾テロ」が相次いでいて,英国の総選挙で予想を覆して議席を獲得したジョージ・ギャロウェイがOil-for-Foodでの一連の“疑惑”について,米議会での証言を求められそれに応じることにした,というタイミングであるが,それらよりもコンテクストとしてより重要なことは,サンデー・タイムズの記事に,あまり目立たないかたちで(と私には感じられる)書かれている,次の事実である。
Last week US forces launched an offensive near al-Qaim, more than 100 miles northwest of the city, and claimed to have killed scores of insurgents.
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先週(=5月第2週),米軍はアル=カーイム近くで攻撃を開始した。アル=カーイムはラマディから北西100マイル以上の場所にある。この攻撃で,米軍は,多数の反乱者を殺したと主張している。


今回のアル=カーイムへの攻撃は5月7日に始められている。この攻撃については,5月10日のガーディアン掲載記事(クレジットはAgenciesなので通信社の配信記事だろう)を日本語にしたが,記事全体においてアル=カーイムへの攻撃が書かれている部分はそんなに大きくはなく,書かれていることも米軍サイドの発表だけなので,詳しい状況はまったくわからない――だから「ファルージャはまだ,内部からの声が少しは伝わってきていただけましだった」とか思ってしまう。そしてそんなことを思う自分に愕然とする。

何なんだよ,これは。「ファルージャはまだましだった」なんて思うときがありえると,約1年前の私は予想していただろうか*1。してねぇよ。

Where:ラマディで
ラマディは,ファルージャから少し西に進んだところに位置する。米国が「スンニ・トライアングル」と呼び,「凶悪なテロリストの巣窟である」とブランディングして彼らの考える“全世界”に向けてマーケティングしている地域の一部である。

sunnitriangle.jpg

まったくと言っていいほどに「報道」がされていないが(英語でも日本語でも),ラマディもファルージャと同じように,米軍による「大規模な掃討作戦」が行なわれてきた(ググったら珍しい写真が。2004年6月の個人のウェブログから)。ラマディについては,特に最近は情報らしい情報がなくて(あっても断片的なものだ),実際のところ私にはよくわからない。

なお,「ザルカウィを狩る」ために破壊が行なわれているアル=カーイムは,ラマディのさらに西,シリアとの国境に位置する。そして,米軍が説明(主張)するには,アル=カーイムにはシリアからの武器弾薬が運び込まれているのだという。これが「事実」なのか「主張」なのかは私は知らない。

Who:ザルカウィが
ザルカウィについては今さら書き足すべきことは何もなかろう。私が管理してるウェブログの過去記事だけで66件もヒットする

……とだけ書くのも素っ気ないからちょっと書き足してみよう。

この人物が潜伏しているからという理由で,2004年11月のとほうもない破壊が,米海兵隊の部隊と彼らをサポートするイラクの部隊によって,ファルージャ*2に対して,行なわれた。

が,結局のところ,2004年11月には,ザルカウィはファルージャにはいなかった。「ザルカウィを標的として」行なわれた攻撃は,ザルカウィをかすりもせず,多数の外国人武装勢力メンバーを「殉教」させ,多数の“俺たちの町は俺たちのものだから俺たちが守る”と武器を手にしたファルージャの人々,さらに,武器を持ってすらいなかったが逃げていく場所も手段もなかった普通の人々を,千の単位で殺した。攻撃を行なった米軍も何人もの戦死者を出した。

この人物が「ヨルダン出身で,テロリストの親玉で,賞金首」なんてことは,このとんでもない破壊というコンテクストの中ではどっちかっていうとどうでもいいことだ――とか書いちゃうと語弊があるので,ちょっと言葉を足しておく。

まず,「ヨルダン出身」は,アブ・ムサブ・アル=ザルカウィ自体を語るコンテクストの中では重要かもしれないが,そうでなければかなりどうでもよい。しかし「テロリストの親玉」(サンデー・タイムズの記事では「ビンラディンの『エミール』」と表されているが,このemirって表現は元々誰が使ってんだ,腹立たしい)はまったくどうでもよいわけではない。彼が「テロリストの親玉」だから,米軍が彼を標的としている以上は。

なお,この米軍のやり方が,ザルカウィを標的とするものであれ何であれ,「コラテラル・ダメージ」の名のもとに不要な死を次々ともたらしては,時々は「正直すまんかった」と賠償金を払うというものであるところに,ひとつの問題がある*3

今回,アル=カーイムに攻撃が開始された5月7日の時点でザルカウィがアル=カーイムにいて,11日(水曜日)にラマディの病院に運び込まれるまでの間に米軍の攻撃で負傷したという推測も成り立つが,それでも,どうしてそのために,レーザー誘導500ポンド爆弾2つを投下、また20ミリ砲弾を510発発射し、海兵隊のF/A-18戦闘機が20ミリ砲弾を319発発射などということが平気で行なわれるのか*4

そもそも「容疑者」は逮捕されるべきであって,処刑されるべきではない。それが法ってもんじゃないのか。

私たちはスペインの異端審問(Spanish Inquisition)などあるとは思ってない世界に生きてるんじゃないのか。Monty Pythonがそれで笑いを取ってから35年も経ってるのに,このありさまは一体何なんだ。


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*1:
リンク先は,書籍『ファルージャ2004年4月』の翻訳・執筆と原稿整理の作業が99%終わった時点で書いたもの。あの書籍は,ジョー・ワイルディングさんのウェブログの記事が「ファルージャの目撃者より」としてネット上に出てから,2週間の間に企画・制作の作業から原稿完成までを完了させた。その後の6週間でデザイン周りの決定・校正から校了・印刷製本という一連の「かたちにする作業」が進められ,「かたち」になった書籍は,6月20日すぎに市場に出た。

*2:
この破壊については,私の知っている範囲に限っても,英国では「ドレスデン」にたとえる記事もあったし,英国・米国の両方で「ゲルニカ」にたとえる記事があり,また「グロズヌイ」すなわちロシア軍が徹底的に破壊しつくしたチェチェンとの相似に注目した記述もある。(時間的に一番近いのはこの5月4日のミラン・ライの記事だろう。)

*3:
これに加えて,あまりのアンバランスさゆえに,遠くから見ている私の目には,まるで「ハンクとロイの蚊狩り」(モンティ・パイソン,1970年11月)のように見えている。「蚊狩り」も何かを嘲笑したものであるのだけれど。

*4:
私は兵器についてはまったく無知だが,Googleで検索して見つけることのできたこちらのページによれば,「マーク82 (MK82) 500ポンド爆弾」1発が投下された場合,着弾地点から「半径約20メートル」の範囲にいる人間は100%死亡,同じく「半径約60メートル」の範囲にいる人間は,その50%(半数)が死亡する。そのような殺傷能力を有する「500ポンド爆弾」は,“小型爆弾”と呼ばれるものである。(なお,以前に調べたとき,この爆弾の破壊の範囲は「半径約300メートル」と書いたが,兵器が「人間を殺す能力」と「建造物を破壊する能力」とは別である。そして「建造物の破壊」の結果としてもたらされる死は,「兵器の性能」のデータに入っているんだろうか? 素直に考えた場合,それは数値化しづらいことだから=他の要素に依存するから,入ってないと思うが。)

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あまりのことの異常さに,思考が高速で分裂して収拾がつきません。追記した記事はトラバしていくのでそれもお読みください。長いけどね。
posted by nofrills at 12:26| voices_from_iraq | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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