2006年06月03日

Penny for Guy, but not 1,800 yen for this film (V for Vendetta)

※RSSでご覧の方、すみません。のっけっからネタバレです。(ブログでは、伏せるべきところは背景色と同色にしてあります。)

つい先日やっと、V for Vendettaを見てきたんですが、はっはっは。乾いた笑いしか出んわ。展開がダルいとか途中で飽きるとかは個人の好みだから言わないけど(<言ってるって)、何で最後が「ピープルパワーはいつでも本物です」+「彼はお星さまになりました」的ゆるゆるなハッピーエンドになるかね。はっはっは。

全体主義社会のアウトローは宅配便で全国民に一気に荷物を発送できるのか。はっはっは。全体主義社会のアウトローはIRAより多い量の肥料爆弾を作って保管しておけるんだから、よほど立派な庭と納屋を持ったコンスタント・ガーデナーなんだろう。のわりに庭のシークエンスはなかったが。はっはっは。ホワイトホールからパーラメント・スクエアにかけて大群集が集まっているのに、さすがは復讐の鬼にハートをゲットされ、現実には求め得ない父親を求めてしまった反体制娘、群集の犠牲などまったく考えないで議事堂爆破(200メートル以内に何人いたよ)。はっはっは。

つーか、何で2005年になってから(<当初公開予定は2005年夏)、80年代的類型ディストピア with ヒトラー的類型独裁者を、新作として見なければならんのかね。現実はもっと先に行ってるというのに。

▼以下はネタバレしそうでも、文字色を変えるなどの加工はしていません。ご注意ください。おそらく映画制作者(アメリカ人たち)は、現在のアメリカについて言いたいことがあってあの映画を作ったんだろう。でも残念ながら、あんなわかりやすい「抑圧的政治指導者」像は、もはや牧歌的な何かにしか見えないんだよね。2005年の新作なら、ああいうのを『サウンド・オブ・ミュージック』みたいなのどかなものとして見せろよ。マジでやるんじゃなくて。(例えばデレク・ジャーマンは90年にはすでにそういうのをやりこなしているし、もっと古いところではパゾリーニの遺作、あれを見ればV for Vendettaに描かれる「権力」など、砂場のままごと遊びである。)

というか、サトラー議長が国民に見せているはずの「慈愛に満ちた父親」「頼れるリーダー」の顔を、一瞬でいいから、はっきりと、描くべきではなかったかね。そんなのは観客が想像すべき(サダム・フセインだって「お父様」的自己演出してたんだから)とでも? そういうところを観客に投げてたら、表現にならんだろう。

現実は、こんな浅くてヌルい映画がきれいに盛り付けて出してくれる『全体主義』像より、もっとおそろしい。

全世界に対し、you are with us, or you are with terroristsと迫り、爆弾を落としまくっているのは、「慈愛に満ちた私たちのお父様」ですらない。字が読めなかったり、自転車でこけたりする、「一緒に酒を飲んだらけっこう楽しそう」な中年男だ。

んで、そいつの参謀がまたどうしようもなくオチャメだ。別の参謀もクソがつくほどインテリで何でもできるわりには、なかなかオチャメだ。(softly-softly than heavy-handed.)

さらに参謀たちの部下もオチャメさんで、一部のオチャメさんたちはどうやら数もまともに数えられないらしい……例えば大規模な災害で「数百人が犠牲に」というときに、それが400人なのか500人なのか、あるいは604人なのか611人なのかがなかなか確定できないというなら、無理もないな、と思う。

しかし、てめぇらがinvadeした国で、invasionと「戦争」が終わったずっとずっとあとになって、てめぇらが狙って落とした爆弾で死んだのが「4人」か「11人」か、はたまた「9人」かってこともはっきりとはわからないってのは、また、いつの間にか「15人」が「24人」になったりし、「武装勢力」だったはずの男が実はふつーの人だったり子供だったりってのは、あれか、nobody expects ...ってやつか?

Our chief weapon is surprise...surprise and fear...fear and surprise.... Our two weapons are fear and surprise...and ruthless efficiency.... Our *three* weapons are fear, surprise, and ruthless efficiency...and an almost fanatical devotion to the Pope.... Our *four*...no... *Amongst* our weapons.... Amongst our weaponry...are such elements as fear, surprise.... [source]


げはははは。(悪魔めいた笑い。)

好むと好まざるとにかかわらず、うちらはそういう現実を生きてる。

そこにサトラー議長のような「独裁者」はいない。あのような極端な類型は、人の想像力を奪うばかりである。ましてやあの映画のラークヒルの場面が示唆するナチスの大犯罪の記憶が共有されている社会では、あのような描き方は、まったくプラスにならない。

ジョージ・W・ブッシュのyou are with us, or you are with terroristsは、2度にわたって民主的に選ばれた指導者による、The Spanish Inquisitionだ。言語処理能力が不自由なところまでモンティ・パイソンに似てらぁ。

……というわけで、予期せずして、「英国におけるカトリックに対するパロディ」を出しちゃったけど、映画のことに戻ると、一番腹立たしいのは、「V」が「カトリックの反逆者」たるガイ・フォークスである必然性が、ヴィジュアル(仮面)と議事堂爆破以外には、カケラもない、ってことだ。あれなら「反逆者」なら誰だっていいじゃん。ロビン・フッドでもいいし、ワット・タイラーでもいい。19世紀のチャーチスト運動の指導者でも問題ないくらいだ。いっそオスカー・ワイルドってどうよ?(あ、それはスティーヴン・フライ=ゴードンがやってるか。)

つか、映画ではモンテ・クリスト伯(個人的復讐、あだ討ち)をメインに据えているんだから、モンテ・クリスト伯だけでいいじゃん。

原作者のアラン・ムーアは脚本を読んで激怒したそうだけど、そりゃあまりに当然だという、あのひどい「ガイ・フォークス」像。頼むから、その「文化」を共有していないのに、形だけで描こうなんて思わないでくれ。それが「傲慢」なんだって、学校で教わらないのか?(げはははは。)

映画のタイトルのV for Vendettaが、実はA for Anarchyであるならば、The Future is Oursは、もう1つ展開して、ものすごく陰惨なところに到達しなければならない。特にそれが、「復讐」に燃えるガイ・フォークスであるならば。ラークヒルでよみがえったガイ・フォークスが破壊したいものは、「体制」を超えた「社会」そのものであるはずだ(I am your future的な)。そこで初めて、本当の「テロリズム」(lawではなくoutlawの、terrorの統治)が可能になる。あの「復讐」は「テロリズム」ではない。「復讐者」のモンテ・クリスト伯は、「テロリスト」ではない。

……って、この映画についてはもっとグチグチとツッコミを書きたいこともなくもないんだけど、今はやめておく。そのうち断片的に書くかも。まあ、娯楽映画としてはいいんじゃないでしょうか。テンポが悪すぎるしアラが多すぎるけど、何も考えず、ポップコーン食いつつツッコミ入れつつ見られるし。セットで作ったロンドンの映像はおもしろいし、あんな類型をやらされているのに、英国&アイルランドの役者は渋いし(特に名前も知らない女医役の人、類型も類型なのにかっちょええ)。なお、私はアクションのシーンにはほとんど関心ありません。

あ、そうだ。「V」のギャラリーの品目に興味があります。ウィリアム・ブレイクと、ウォーターハウス(『レディ・オヴ・シャロット』)とファン・アイク(『アルフィノニ肖像』)とカラヴァッジオ(『病めるバッカス』)とティツィアーノ(『バッカスとアリアドネ』)と、ムンク(『思春期』)らしきものは認識できたんだけど、ほかがわからないので(特に風景画:コローがあったよーななかったよーな)、知ってる方、教えてください。

あと、ウォーターハウスの上にかかってた歴史画、ギャラリーのシーンになるたびに、あれは誰の何だっけとずっと考えてたんですが、思い出せませんでした(ネルソンの死みたいな感じの、19世紀浪漫ナショナリズムの絵)。ターナーは「ターナーである」としかわからなかったので(笑)作品名を教えてください。これじゃなかったよね?

あのコレクションは、物語上、ロンドンの美術館からサルベージした作品のはずで、ウォーターハウスはテイトだし、ほかはだいたいロンドンのナショナル・ギャラリーなのだけど、カラヴァッジオは、ちょっと似たように見えなくもないこれはロンドンだけど、『病めるバッカス』はローマにある。ムンクも、別の絵はテイトにあるけど、あれはロンドンにはないはず。ムンクじゃなかったのかなあ。(版権が難しかったのか、画面上で視認できそうな作品を無理やり選んだのか。。。あれらが「頽廃芸術」なら、英国絵画のロセッティとバーン・ジョーンズがないのは奇妙だし、王室が禁じられているんならチャールズ2世肖像とかあの辺がないのも奇妙。そして何より、一番わかりやすいビアズリーはどこ行った。サルベージされる前に燃やされてんだろうか。笑)

あ、ベラスケスもあったね。

あと何か、「そういえばあれもあった」と思い出しかけたものがあるのですが、何だったか忘れました。

あの暗い部屋で非常に目立つ『レディー・オブ・シャロット』は、多分イヴィーのことだと思います。(図としては、ホルマン・ハントのほうがわかりやすいけど、暗くて見えづらいか。)
http://charon.sfsu.edu/TENNYSON/TENNLADY.HTML
There she weaves by night and day
A magic web with colours gay.
She has heard a whisper say,
A curse is on her if she stay
To look down to Camelot.
She knows not what the curse may be,
And so she weaveth steadily,
And little other care hath she,
The Lady of Shalott.
....
She left the web, she left the loom,
She made three paces through the room,
She saw the water-lily bloom,
She saw the helmet and the plume,
She look'd down to Camelot.
Out flew the web and floated wide;
The mirror crack'd from side to side;
"The curse is come upon me," cried
The Lady of Shalott.
...
And down the river's dim expanse
Like some bold seer in a trance,
Seeing all his own mischance -
With a glassy countenance
Did she look to Camelot.
And at the closing of the day
She loosed the chain, and down she lay;
The broad stream bore her far away,
The Lady of Shalott.
...


『レディ・オブ・シャロット』の上にかかっていた絵(ネルソンの死みたいなの)は、題材はナポレオン戦争かなあ。だとすれば「V」の登場シーンの音楽、チャイコフスキーの『1812』とつながる。

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あと、この映画を歓迎している、特にいわゆる左翼系の人には、よく見直してほしい点がある。このアメリカ映画が否定しているのは何か、というと、究極的には「独裁」(サトラー政権)だ。これを近年の「独裁政権」敵視の流れに当てはめてもらいたい。そして、例えばウクライナのオレンジ革命という茶番でアメリカが何をしたかを思い出してもらいたい。そして、ベラルーシやトルクメニスタンにアメリカが何をしていないかを。コソヴォで何をしているかを。ラストの群集にごまかされちゃいけない。この映画のラストは、「やっぱり独裁者は倒れ、古いものは滅びる」というカタルシスだ。製作者は、多分ほんとに素直に自国の今を批判しているつもりなのだろうけれども、見事にトラップにはまっている。そしてそれを自覚していない。それがアメリカの厄介なところだ。

バグダードで爆死したマーラ・ルジカをご記憶だろうか。彼女は最終的に、爆弾を落とすことをやめさせようとする代わりに、イラクの人々に対し、「うちの軍隊が爆弾を落としたらごめんなさい、でももし爆弾であなたの家族が死んだら、あなたが補償を必ず受け取れるようにするから」と行動し、議会を動かした。アメリカの、主に「リベラル」と呼ばれる人たちは、彼女が死んだときに、彼女のことを「彼女はほんとうに天使だった」と讃えた。爆弾とカネを落としに来る天使は、中東では「死の天使」と呼ばれるだろう。
posted by nofrills at 17:37| i_dont_think_i_am_a_pacifist/words_at_war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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