2005年07月30日

IRAステートメント後の展開およびあれの意味。

South Armaghの英軍基地撤退作業着手のほかに:

・NI担当大臣がロイヤリスト内紛について「もうやめなさい」と発言。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4729715.stm

・当然ながら,ブレア首相はIRAのステートメントを歓迎したが,それについての論考。
http://www.guardian.co.uk/uk_news/story/0,3604,1538586,00.html1)ロイヤリスト内紛:
今年5月に出たIMCのレポートから:
○Loyalist Volunteer Force (LVF)……活動は減ってきているが,依然として組織犯罪,とりわけ麻薬密売を活発に行なっている。1月に大量のカナビスとEが発見されたほか,UVFとつながりのあるタクシー会社がLVFメンバーによって銃撃されている。
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○Ulster Volunteer Force (UVF) and Red Hand Commando (RHC)……活動を続けており,暴力的であり,組織犯罪を行なっている。LVFとの抗争で,クリスマスから新年にかけて襲撃を繰り返すなどしている。


この,LVFとUVFが抗争を続けている。しかし私には,背景となっている事情がよくわからない。

この“内紛”が激しくなったときは「麻薬密売をめぐる縄張り争いがきっかけとなって」云々……という報道記事を読んだのだが,そういう「犯罪組織(criminal gang)」としての争いのほかに,politically motivatedな部分もあるのかもしれない。

しかしこの人たちの行動は――武装闘争終結宣言をしたばかりのPIRAなどと同じく――どこまでが「組織犯罪」で,どこまでが「政治的目的を有する暴力的な違法・犯罪行為」(テロ)なのかがわからない。

LVFは1996年にUVFから分離した“過激派”で,グッドフライデー合意に反対(グッドフライデー合意は,北アイルランド議会・政府での緑とオレンジのパワーシェアリングなどを規定)。

UVFは基本的スタンスとしては和平推進。悪行三昧の末に,カトリックに対する攻撃を停止。

※以上,過去記事を参照。

この抗争では何人か死んでる。この数週間だけでも2人死んでる。プロテスタント・エリアの住民たちは落ち着いて暮らせやしないばかりか,County Downでは一方の住民がもう一方の勢力によって住居を追い出されるという事態にまでなり,治安当局(PSNI)が厳戒態勢。

いわば“お約束”の,「カトリックとプロテスタントの争い」ですらない。「プロテスタントがプロテスタントを脅し,殺している」状態。何をやっているのだ。

……ということを英国政府が言うためには,PIRAの武装闘争終結宣言が必要だったんだろう。

「カトリック側は武装闘争を放棄して政治的なアプローチを取ることを宣言した」→「プロテスタント側は政治的なアプローチを取るべき時に,内輪で武装闘争をしている。そんなことをしていたらロイヤリズムは終わるぞ」ということだろう。

英国政府のNI大臣であるPeter Hainの発言:
"What makes this worse is that this intimidation and violence is from those who claim to be representing their own communities and who say they are proud of their heritage.
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"This has to stop. Loyalism will be left behind if it doesn't step back from the self destruct mode that it is currently engaged in. No longer can there be areas plagued with feuds and murders - gangsterism masquerading as "loyalism".


ナショナリズムとロイヤリズムの間の「争い」は,「暴力」ではなく「政治」で決着させなければならないということを,ナショナリズムの側の武装集団が明確に受け入れた段階で,次はロイヤリズムの側の暴力停止が為されなければ進まないという図式だろう。

「カトリック対プロテスタント」の図式での「争い」が起きるオレンジ・パレードが終わった後というタイミングでね。

テロリズムにおいては,「政治」と「暴力」が結びついてしまっている。言論で人を動かすべきところを,暴力で動かす(脅したり暗殺したり圧力をかけたり)。

これが,「ただの暴力(犯罪)」と「テロ」を分けている点で,PIRAに対しては,「お前らのやってることは『ただの犯罪』だ」と追及する“作戦”が奏効した(ノーザン・バンクからの現金強奪,ロバート・マッカートニー殺害事件およびその事件の目撃者への圧力,ならびにそれに対するIRAからの反応が「下手人を撃ち殺す」という提案だったことなど)。

次はロイヤリスト側に「お前らのやってることは『ただの犯罪』だ」が集中するかもしれない。というよりも,英国政府が本気なのなら,そうすると思う。誰がアーキテクトであるにせよ。(もし保守党政権だったらどうなってたかわからないが。)

ここで問題は,プロテスタント側の合意反対派であるDUPが,NIでは一番多くの議席を有しているということ。なぜDUPみたいな,シンフェインをぶっ潰すこと(つまり「United Ireland断固阻止」)しか眼中にないような発言を繰り返す政治的勢力がトップ政党になったのか。

DUPが「躍進」したのは2003年11月のNI議会選挙2005年5月の英国議会の総選挙

※なお,NI議会は2003年11月に選挙だけは行なわれたが,2002年10月からサスペンドされていて,選挙直前の緑とオレンジ両派の話し合いも決裂したために,結局,「議員はいるのに議会がない」状態が続いている。

2)トニー・ブレアにとっては「男の花道」か?
このガーディアン記事はずいぶんシニカルなように見えるけれど,まず,今回のPIRAのステートメントによって,「もう『PIRAがテロるから』を自己正当化の根拠/理由/言い訳/逃げ道にできない」状態になったことは――それでもまた,「言葉ではなく行動を」とか「証拠写真を見せろ」とかになるかもしれないけれども,今度そうなったら英国政府はDUPを非難するんじゃないかと私は思う。PIRAからは大幅な譲歩を引き出したということになっているんだし――確かなことだ。

また,
Last night's statement passed that test and, more important, was a unilateral move by the IRA, not conditional upon the conduct of others.

とあるように,IRAが一方的に(i.e., もう一方が動いたらというコンディションなしで)武装闘争終結を宣言したことは,言われてみれば確かに,である。

この記事のどこがシニカルっていうと:
But No 10 admitted that last night's statement "is of a different order to anything before". It means that the prime minister, drained by the pressures of the Islamist terror bombings since July 7, can go on holiday this week in a more cheerful frame of mind.
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If the IRA's disarmament promises are put into effect, eight years of often-frustrating negotiations will have paid off for a prime minister close to the end of his career.

つまり,「首相はこれで明るい気分でホリデーに出かけられる」。そして「IRAが本当に武装解除するのなら,8年にもおよび,難航した交渉が,結局のところ奏効したことになるわけで,キャリアの終わりに近づいている首相にとっては明るいニュースだ」(<意訳にもならないが:a prime ministerは「どんな首相にとっても」を含意)。

※a prime minister close to the end of his careerというのは,ブレアが引退宣言をしたという意味ではない。

別の記事から少し:
For Mr Blair, Northern Irish peace remains perhaps his best hope for an enduring political legacy, with the Good Friday agreement one of the outstanding achievements of his premiership. While the current war on terror brings only anxiety, the one just ending brings a chance for statesmanlike triumph. Amid bombs and rumours of bombs in the London of 2005, what a relief for the PM to declare: "Today may be the day that peace replaced war, that politics replaced terror, on the island of Ireland."
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Not that Mr Blair got carried away. He acknowledged that after so many "false dawns and dashed hopes", people would be sceptical.
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Indeed, a consensus from Downing Street to the White House was that, while the IRA statement was welcome, it will be republican actions rather than words that will matter. In disarmament talks with the Soviet Union, Ronald Reagan's maxim used to be "Trust, but verify" - and that was the rule of the road yesterday.

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-- Jonathan Freedland, A nightmare ends, another nightmare begins, the Guardian, Friday July 29, 2005


そして記者の分析は続く:
It underpins not just one of Mr Blair's more solid achievements but reinforces his repeated claims that the far more brutal war between Israel and the Palestinians can also be resolved by peaceful means.


うん。この点はね。

英国が北アイルランドを「地域紛争の平和的解決」のモデルにしようとしていた/していることは本当だと思う。「暴力ではなく政治で」っていうことで。

その成功例が,英国には絶対必要。だから北アイルランドは何としても成功させなければならない。

しかも,歴史に名を残したいトニー・ブレアにとっては,自分が着手したことは自分が終わらせなければならない。

もうひとつ,シニカルな点:
With unionist politicians still smarting from the Northern Bank robbery in December, others still angry over the murder of Robert McCartney and other acts of community violence, the Conservatives at Westminster last night echoed warnings against premature celebration.


ノーザン・バンクの現金強奪もロバート・マッカートニー殺害も,「有用な事実」として利用された。「PIRAというのはこんなに不法でひどい連中です」ということを示すために,あの2つの事件はとても有用だった。

そして,この記事の結びは:
David Lidington, the Tory Northern Ireland spokesman, cited three proofs of republican good intention.
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The IRA had to cease to exist as a paramilitary organisation and all illegal arms and explosives had to be verifiably destroyed, republicans had to cooperate with the police on both sides of the Irish border, and other criminal activities had to cease, "including intimidation, shootings, beatings, robberies, smuggling and money laundering".
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That may prove a tall order, but Mr Blair and Mr Ahern have finally received the form of words they have been asking for.


いわく:PIRAが本当に不法に所持している武器や爆発物を放棄して準軍組織としての存在を停止し,南北アイルランドでリパブリカンが警察に協力し,「脅迫や発砲,暴行,金品の強奪,密輸,マネーロンダリングといった」違法な活動を停止するのなら,リパブリカンはgood intentionで今回のステートメントをした,と保守党議員は言う。(これはものすごいイヤミだと思う。)

それはtall order(このtallはちょっと難しい;「度外れた」というような意味)であるかもしれないが,いずれにしても英国もアイルランド共和国も,これまでずっと待ち望んできた言葉を得たということではある。

……確かに,今回のステートメントで最も重要なのは,「PIRAからその言質をとった」ということだ。中身じゃない。

中身についてああだこうだという意見もあるけれども。
posted by nofrills at 18:15| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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