2003年12月04日

音 〜映画 "In This World"〜

映像はもとより,音にメッセージを感じた作品でした。映画館で見てよかった。

『イン・ディス・ワールド』(原題: In This World)
http://www.inthisworld.jp/
監督:マイケル・ウィンターボトム Michael Winterbottom

この映画を見てきました。東京では日比谷シャンテシネの地下(シャンテシネ3)で上映中。上映時間は11:00/12:55/15:00/17:05/19:10〜20:55です。

本編が始まる前の予告編で「12月20日当館にてロードショー」の作品があったので,19日までの上映かもしれません。(←推測。正確なことは劇場に問い合わせてくださいませ。)

以下,この映画についてネタバレになりそうな箇所は,アステリスクで挟んだ上で背景と同じ色でマスクしておきます。ブラウザでは読まないという方がいらしたら,以下にはネタバレが含まれていますのでご注意ください。(まだまだウェブログを使いこなせてないのでよくわかっていませんが。)以下,ところどころネタバレご注意。(背景色と文字を同じ色にする形でマスクしてあります。マウスで塗りつぶすことによって文字を読むことができます。読みづらいけどごめんなさい。)

まずオープニング・クレジットでBBC Filmsと出たのに驚愕。BBCがこういう映画(基本情報だけは昨年の映画祭のレポートで知ってました)を制作したのか,と。

この映画はロードムービーと言えばロードムービーだけど,その表現に何かしっくり来ないものがあるのは,これは果たして「ムービー」なんだろうかと思うからかもしれない。それに移動すること自体がテーマなのだ。主人公の成長だとか自己確認とかじゃなくて。

それだけに,この映画は独特だ。英国では何年か前からdocu-soapと呼ばれる手法がよく用いられるようになっているけれど,この映画はそれにしても独特。何だろうね? だからもう一度見たい。

映画はパキスタン北西部,アフガニスタンに近い場所のロングショットで始まっていたと思う。黄土色の建築物の群れに光が与える濃淡と影が画面いっぱいに広がって,人々が動いている。町の音=生活の音。

いかにも*ちょこざいな小僧*といった感じのジャマールが,年上の従兄弟のエナヤットと一緒に,ロンドンを目指す。業者にたくさんの金を払ってパキスタンを西へ進みイランヘ,そしてさらに西へ。

ものすごい音に包まれつつ,いろいろな方法で身体を西へ西へと運ばれるジャマールとエナヤットのたどった道は,私が小学生のころにテレビにかじりついて見ていたテレビのドキュメンタリー『シルクロード』の道だったのかもしれない。

イランに入った最初のシークエンスで画面に現れるのは,*筋骨隆々とした男たちのトルソの写真のカード。ロンドンでも見るものだが,あれはゲイのテレクラの類。それが壁に貼ってある。*カメラが横に滑るとブローカーらしきイラン人の男の姿。*アンダーグラウンドなテレクラ経営もしているのかもしれない。多角的経営のビジネスマン?*

*イランで民族衣装を捨てられてズボンにセーターにジャンパーという服を与えられ,出入国管理対策として付け焼刃のペルシア語を覚えさせられ,「アフガンの人」としての記号がわからないようにされたジャマールとエナヤットは,粗末そうな乗合バス(後ろの窓にアラビア文字←多分で何か書かれていた。バスは満員に近い感じだった)の車内で警備の軍人(だと思う)に尋問され,あえなく強制送還。その後再び業者に金を払ってイランへ入る。*この辺りのスピード感(画面の切り替え)はとても気持ちがいい。

テヘランで*ロングサイズ(longと言っていた)のソフトクリーム(icecreamと言っていた)*を注文するとものすごいことになるということがわかった。

テヘランの夜の映像は,まさにまさに『ひかりのまち』。ウィンターボトムが映像にしたかったことなんだろうと思う。それがロンドンであれ,テヘランであれ。

*今度はちょっと高級そうなバスで,今度は離れた席に座ったジャマールとエナヤットはイランを無事に横断して,トルコとの国境地帯,クルド人の集落(字幕などは出ないし特に説明もされないから,前もって地理を知っていないとあれがクルド人集落ということはわかりにくいかもしれない)で暖かくもてなされ,その家の子どもと仲良くしたりしながら機をうかがい(←多分),夜の夜中に国境の山を越える。雪の積もった山,国境警備の兵士(発砲した),案内役のクルドの子どもが引き返したくなる状況。映画音楽も流れない,暗視カメラによる映像は,*フィクションとドキュメンタリーの境目を曖昧にする。もちろん私は今見ているものがフィクションなのだとわかっているけれども,その「わかっている」状態は,テレビで「防犯カメラは見た」みたいなものを見せられるときの感覚にちょっと似ている。

*トルコのアコモデーションでエナヤットが温かい湯で顔を洗う。湯があること。そんなことにもここでは意味がある。トルコのテレビでは妖艶な女性歌手が歌っている。*

*ジャマールとエナヤットは,旅費稼ぎのためか,フォークやナイフを作る小さな町工場で働く。その町でスウェーデン(だったと思う)に向かう夫婦と赤ん坊と知り合い,ほのぼのと仲良くなる。赤ん坊が手にした食べ物をエナヤットに「どーぞ」と差し出す。人と人とのつながり。彼らは一緒のコンテナに押し込められて船に乗せられる。そしてイタリアへ。この船の中での*音がものすごく痛い。そんなに長い時間聞かされていた音ではないけれど,耳をふさぎたくなるような音。

*船はイタリア,トリエステの港に着く。*何年か前にテレビで見た,ルーマニアやアルメニアから西欧に向かう「難民たち」を追ったドキュメンタリーでもこの港が出てきた。*やっと開けられたコンテナの扉。赤ん坊の泣き声。ふらふらと出ていくジャマール。そしてその他は無言の人々。硬直したエナヤットがごろんと転がる。イタリアの港の労働者が「ピッコロ・バンビーノ」と叫んで赤ん坊を抱き上げる。*

*イタリアの町,レストランやカフェをめぐり,ジャマールは2本で1ユーロのくじを売る。civilised worldの人々の何人かがジャマールからくじを買い,何人かが「いらない」という仕草を見せる。ジャマールはオープンカフェで地面に置かれていたハンドバッグをかっぱらう。*そしてジャマールは*インターシティ(だっけ?欧州の各都市を結ぶ特急)で*フランスへ入る。*

フランスでは都市での彼の様子は画面には現れない。サンガットの難民収容センターだけが彼の世界となる。

そこから先は,筋書きとしてみれば,BBCニュースのサイトなどでいくつも読んだ記事と同じ。(2001年9月始めの過去記事はこのページの(2)と(4),サンガットについては2002年5月の(38)。)ただしジャマールの結末はBBC記事などとは異なる。

最後のシークエンス,ジャマールはロンドンで働いている。彼が歩くロンドンの町は,ウェストエンドだのホワイトホールだのではなく,粗末な2階建て(あるいは3階建て)テラストハウスの並ぶ日曜露天市。これはどこだろう?(わかる方がいらしたらコメントください。*映画の冒頭でKilburn High Streetと言っていたので,キルバーンなのかな?でもローマン・ロードの感じに似てたような……。)*マクドナルドのロゴが風景の中にある。

映画のエンドクレジットは,通常キャストやスタッフの名前がロールしていくものだけど,この映画では*ジャマールとエナヤット,それと撮影クルーが通ってきた場所の壁に,色調を合わせた文字でキャストやスタッフの名前を重ね,それが順繰りに何枚も(この点はテレビっぽい?)示される*という形。**の微妙な凹凸が*地図*に見える。子供の頃,天井や柱の木目をいろいろなものに見たてて楽しんでいたことを思い出す。

パンフレット(700円)は作品の背景についてけっこう詳しく書かれていて,パンフレットだけ見たら,「社会派」の映画のように見えるかもしれない。

でも私はこの映画は音の映画だとやっぱり思う。映像に最大限レスペクトを払った上でやはり。町の音,ジャマールとエナヤットが身体を乗せるトラックやバスの音,パキスタンのアフガン難民の町(「難民キャンプ」と呼ぶことに抵抗を感じる)で流れる音楽とそれに合わせた踊り,「ボリウッド」映画(だと思う)の1場面,テレビの音,各地で子どもたちが*サッカー*をプレイしてる時の音(道中でずっと*サッカー*が楽しまれていることは,英国の人には私にとってよりも,より強いメッセージとなるに違いない),などなど。

っていうか*牛が喉を切られる瞬間の音*なんて初めて聞いた。「残酷だからあの画面はカットしなさい」とか言われなかったのかなあ?(イヤミざんす。)

あと,イスラム教というとお祈りの声を脊髄反射で連想してしまう私は,あのお祈りの声は,テレビなどで「ここはイスラム教の国(あるいは都市)ですよ〜」ということを説明するために多用(むしろ濫用)されているものに過ぎないということを,改めて思う。ロンドンと言えばビッグベン,みたいな便利な記号(シンボル)。ロンドンですよ〜と説明したい時に,教会の鐘の音は用いられないのに。ああオリエンタリズム。

道中のあちこちで寝る前にジャマールが語っていた「笑い話」は,ジャマールという役を与えられたあのアフガン難民の少年があらかじめ知っていた話なのだろうか。

この映画にベルリンの金熊が与えられたのは,消費される情報,消費されるエンターテイメント,そういうものを超えて静かに淡々と語ることに審査員が共感したからかもしれない。

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この記事,このblogでどのカテゴリに入れるべきか,ちょっと考えた。映画とかは「雑多に」というカテゴリに入れておくのが普通だけれど,英国人の映画作家(「監督」じゃなくて「作家」と呼びたいね。英語だとfilm-makerなんだけど)による作品だし,ロンドンが*this world*なのだからという理由をあとづけして「todays_news_from_uk」に入れてしまう。

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「ことしゃんのページ」さんの「アフガン映画」のエントリ(11月22日)
In This World以外にも複数,アフガニスタンを舞台にした映画の上映スケジュールなどの情報が。
posted by nofrills at 20:40| todays_news_from_uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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