2006年06月22日

nationとstateの間に。

The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国)という「国家」が、おおざっぱには、England, Wales, Scotland, Northern Irelandという4つの「単位」で構成されていることは、いまさら言うまでもないことなんだが、サッカーのワールドカップやEUROの時期になると、「4つの単位」がいつもよりはっきり見える。

England, Wales, Scotland, Northern Irelandという4つの「単位」は、それぞれがnationであり、それゆえそれぞれにnationalismがある。

※ここではNorthern Irelandについて深くは扱わない。すなわち、最初から「Northern Ireland」であったかのような書き方をしてスルーする。なぜならそこをちゃんと書くと途方もなく長くなるから。(もうちょっと丁寧な記述は、当ブログのnorthern_irelandのカテゴリ参照。)あと、「4つの単位」ってのもとても大雑把な把握ではある。

「英国におけるナショナリズム」としては、BNPやNFやCombat 18といった根本的に外国人・異人種排斥主義の「英国の極右」や、「イングランドで破壊活動を行なってきた北アイルランドのナショナリストのテロ(組織)」は、日本で比較的広く知られているんじゃないかと思うし、スコットランドのナショナリズムについても、ショーン・コネリーという超有名人が関わってるから、「そういうものがある」っていう程度には知られているんじゃないかと思う。ちょっと興味のある人なら、「スコットランド語」とか「ウェールズ語」の背景も知っているだろうし、あるいはコーンウォールについての最近の動きもある程度は知られているだろう。

でもそれらが具体的にどういう表れをしうるのかってことまでは、おそらく、そんなに知られてない。

「スコットランド・ナショナリズム」のあらわれとしてはものすごく極端なものなのだけど、スコットランドで、イングランド代表を応援している人に対するある種の暴力(言葉によるものを含む)が起きている。

ウェブログ「アンモナイト」さん@ウェールズの記事:
7歳の子ども殴られる (理由:イングランドを応援したため)  2006-06-22
http://tempest.blog3.fc2.com/blog-entry-1070.htmlスコットランドのエディンバラの公園で家族とピクニックを楽しんでいた7歳の男の子(国籍はニュージーランド)が、いきなり男から頭を強く殴られた。この子はイングランドのユニを着ていた。殴った男は、この子のお父さん(同じくイングランドのユニだったようだ)に向かって、「イングランドなのかよ、スコットランドじゃねぇのかよ」と怒鳴りつけ、父親にも殴りかかった。BBCの記事の写真で、このお父さんがどのくらい殴られたのかがわかる。見た瞬間に痛くなるような写真だ。
England shirt attacks condemned
http://news.bbc.co.uk/1/hi/scotland/5101184.stm

7歳の子供と34歳のお父さんを殴った24歳から30歳と思われる男は、レンジャーズのユニを着ていた。(レンジャーズについては、セルティックとの「宗派的対立」を参照。つーか誤解を恐れず極端にわかりやすく説明すると、セルティックがIRAであるとすれば、レンジャーズはコンバット18である。)(※両クラブのすべてのサポがそうだというわけではない。)

一方アバディーン(スコットランド)では、車を停車させていた男性が、車から引きずり出されてボコられた。この男性はイングランド出身でアバディーンには12年間住んでいる。ボコられたときは、イングランドのユニを着て、車にイングランドの旗をつけていた。イングランド人なんだから不自然ではない。アバディーンの暴力男は40代前半。こういうのは「一部の血気盛んな若者」に限らない。

スコットランド自治政府のファースト・ミニスターは、2件の暴力事件はmindless thugsによるものと考えており、ファースト・ミニスターの報道官は、「ああいう人たちはほんとうにサッカーのファンなのだろうか?」と述べている。

スコットランドのナショナリズムといえば、という政党SNPも、「これはサッカーの試合であって、the Battle of Bannockburn(@14世紀のスコットランド独立戦争<ひどい映画だけど『ブレイブハート』など参照)とか tribal warfareではない」と述べている。スコットランド保守党も、narrow-minded thuggeryという表現で厳しく非難。

なお、スコットランドのDumfriesとGallowayでは、万国旗状態でいろんなナショナル・フラッグがひらひらしている中、イングランドの旗だけは、ヴァンダリズムによって、外されたらしい。
Vandals try to burn England flag
http://news.bbc.co.uk/1/hi/scotland/south_of_scotland/5094262.stm

「反イングランド」基調なのはスコットランドだけではない。ウェブログ「アンモナイト」さんでは、ウェールズの様子も報告されている。

「スコットランドって叫んでるのはT&Tのスコットランドって名前の選手を応援してんだぜ、スコティッシュ・リーグのプレイヤーだしな」とかって気持ちよくにこにこしている間はいいんだけど、恒例行事とかシャレとかの域を超えて、大真面目に「すべては反イングランドのために」とかなると、ちょっとねー。もうちょっと本格的になれば、「敵の敵は味方」がドグマみたいになりかねない。

いずれにせよ、スコットランドとウェールズについては、nationとstateの間の「断絶」が、サッカーの試合など「英国の4つのnation」がそれぞれに「ナショナル・チーム(代表)」を出すような機会には、まるでフィクションのように強調される。その一部が、エディンバラやアバディーンでのむやみな暴力のようなかたちとなって、現れる。だけどもともとそんな「断絶」は存在するのか? 「断絶」を作りたい人が「それぞれは対立すべきである」という前提を、当たり前のように思わせたがっているだけじゃないのか?……ということを、よその土地のことながら、思わされる。

スコットランドやウェールズの「ナショナリズム」を認めないわけではないけれども、「ナショナリズム」だけを支えにすることで、すべての口実を「国(nation)を愛する心」に求め、7歳の子供を殴りつけるなんてことすらも、「愛国心ゆえ」と片付けようとする「勢力」があることは事実(それがどんなにマイナーでも)。「ナショナリズム」ってのは強烈な力を持っていて、それゆえに、「何でもかんでもとにかくとりあえずナショナリズム」が許容される社会にもなりうるし、だからこそ、そういうのは、やっぱちょっとは警戒してないといかんのじゃないかと思う。他国の例であっても、「ナショナリズム」の持つ力として、一般化して見ることは、十分にできる。

イングランドのナショナリズムもかなり強烈なんだけど、何て言うのかな、今回は「わが国の代表として恥ずかしくないように」とかって空気は、私が見ている範囲では、あまり感じられない。個別のプレイヤーに対する批判というか辛口コメントは強烈だけどね。

ただし例外がオーウェン・ハーグリーヴズに対する、あらかじめ設定された冷たい風だ。ファンも冷たいし、放送でのコメンテイターも冷たいらしい。私がネットで読むことのできる記事でも冷遇されてる。なぜかというと、ハーグリーヴズは「イングランド」のナショナル・チームのメンバーとしてはどうよ?という点があるからだ。

ハーグリーヴズは、カナダ生まれのカナダ育ちで、プロ・フットボーラーとしてのキャリアは、カナダを経てドイツで培っている。両親(英国人)が英国からカナダに移住した翌年にカルガリーで生まれているから、England, Scotland, Wales, Northern Irelandの4つのnationの代表資格を持ち、またドイツの居住が長いからドイツの代表としてプレイする資格もあり、当然カナダ代表の資格もあり、というなかで、2000年、19歳のときにイングランドのU-21代表の一員となり、それ以来「イングランドのナショナル・チーム」でプレイしている。

(こういうとき、「代表チーム」っていう日本語に、強い違和感を覚えるね。)

しかし、両親のほかには、ナショナル・チームの試合でしか「イングランド」と接点を持っていないから、「なぜイングランドのチームに彼が?」っていうのがあるらしい。それだけに「厳しい目」が注がれる、という言い方もできるが、詰まるところ、「奴は(感覚としては)イングリッシュとは思えない」ってことだろう。

なお、スコットランドには「タータン・アーミー」さんたちがいる(彼らは今回の暴力事件とは無関係、とはっきり述べている)。タータン・アーミーさんたちはサッカーのスコットランド代表のサポの団体で、世界中どこでも、スコットランド代表の試合にはあの「青地にばってん」の旗を持ってキルトを身に着けて応援に行くというコアな人たちで、この5月のキリンカップにも日本まで応援に訪れている。98年フランス大会では「世界一フレンドリーなファン」として表彰された(ちなみにスコットランドはこの大会には出てない)。今大会でももちろんドイツ入りしている。私が見た写真では、ブラジルを応援しているらしい。
http://en.wikipedia.org/wiki/Tartan_Army

ちなみに、イングランドには「バーミー・アーミー」さんたちがいる。ただしサッカーじゃなくてクリケットのイングランド代表のサポさんたちだ。サッカーの暴れ隊とは違って、暴力的ではない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Barmy_Army

あと、「IRA型」のナショナリズムのあらわれ@スコットランドとして、この前このブログで「タータン・テロリズム」のことをほんのちょっとだけ書いた。(<リンク先のかなり下のほうを参照。)
posted by nofrills at 23:55| todays_news_from_uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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