2006年01月12日

北アイルランドOTR法案,ゴミ箱行き。

OTR法案が廃案だ! 久々のいいニュースじゃないか。

。。。って,実は何も変わらないのだけど,少なくとも悪い最悪の方向に変わることは避けられた。

「OTR法案」とは,北アイルランド,グッドフライデー合意(1998年)までに政治的な背景からなされた犯罪の実行者に対する「事実上の恩赦」を行なうとする法案,The Northern Ireland (offences) bill (通称はon-the-run bill,つまり「OTR法案」)。英文記事で"scrapped"とか"withdrawal"という表現があるので,完全に「廃案」。ガーディアンでは「元法案(ex-bill)」と書かれている。

アイルランド共和国での同様の法律の整備も,このためにストップ(Irish Times記事)。

Google News UKの関連記事は150件超。

otr-scrpd.png

Peter Hain's statement
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/
story/0,9061,1684049,00.html


前置き部分(議員への報酬などで巨額の費用が支払われているのにサスペンドされたままの北アイルランドのアセンブリーを機能させることに今年は全力を注がねばならない,とかいう話)が長く続いたあとでようやくこの件についての話が始まっている。

Government scraps fugitive plans
Last Updated: Wednesday, 11 January 2006, 13:11 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4602314.stm
The government's controversial proposals on paramilitary fugitives are being withdrawn, Northern Ireland Secretary Peter Hain has said.
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...
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Mr Hain told Parliament the legislation was necessary but Sinn Fein's rejection of it made it unworkable.


労働党としては,「シン・フェインが反対したから」を口実としたいようだけれども,反対したのはシン・フェインだけではない。というかあの法案を支持していたのは労働党とシン・フェインだけで,シン・フェインが「英国治安当局の犯罪行為も特別措置の対象となる点で党内の反対意見が非常に強い」ことを理由に法案反対に回ってからは,労働党しか支持してない状態になっていた。

このOTR法案は元々ユニオニストの政党はすべて強硬に反対していた。(なぜならば元からシン・フェインが深く深く関わって作られたものだから。)というわけで,ユニオニスト側のメディア,ベルファスト・テレグラフの勝利宣言をお読みください。

Viewpoint: OTR U-turn a victory for people power
12 January 2006
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/opinion/story.jsp?story=675567北アイルランドのユニオニストは,現在また,ピリピリしたムードなので(ナショナリストのセント・パトリック・デイのパレードが許可されたから),「ピープル・パワーで勝利」というベルテレさんの見出しはいろいろな方面に向けて放射される気合を感じさせるなあというのが私の印象。

ベルテレさんから引用:
From the outset this was an ill-conceived piece of legislation which infuriated unionists, alienated the SDLP and was repudiated ultimately by Sinn Fein.
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In such circumstances, the Secretary of State was bowing to the inevitable. But another element in his thinking must have been the wave of public opposition, particularly on the part of victims.
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The idea that terrorists who had committed heinous crimes could have the slate wiped clean without appearing before a tribunal was an affront to justice which would have heaped insult on injury.
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If Mr Hain had harboured any doubts about the strength of public opinion, these must finally have been extinguished by yesterday's Belfast Telegraph poll, which showed that 63% found the bill unacceptable. The people had spoken and for once, the Government listened.


SDLPに言及があるのは,私などはスレているので「申し訳程度に書いてる」とか思ってしまうのではあるが,事実,SDLPはこのOTR法案には最初からすごい反対していた。

上記引用文中にある「世論調査」は,昨日スラオさん(=Slugger O'Toole)で読んだ記事によると,大規模な世論調査にかけては英国トップクラスのMORIが行なったもので,ユニオニスト,ナショナリストの別なく,6割が「受け入れられない法案である」と回答した,というもの。

ベルテレさんがかなり厳しい口調で非難というか警戒しているピーター・ヘイン北アイルランド担当大臣は,ご両親が南アフリカの白人でアパルトヘイト反対運動にコミットしていて,などといったバックグラウンドもあって,「統一アイルランド」の支持者だった。もちろん大臣の立場ではそういった個人的な信念は封印しているのだが,それでも,ナショナリストとのパイプはけっこう強いはず・・・と思ってヘイン大臣のサイトを見たのだけど,「北アイルランド」のページは真っ白!(下記は記念スクショ画像。)

hainsite.png

労働党政府であろうが保守党政府であろうが,英国政府はこれまで秘密裏にシン・フェイン(つまりProvisional IRAの政治部門)と交渉を行なって重要な事項を決定してきたこともあり,一般論として,ユニオニストは英国政府には基本的にかなり警戒感というか不信の念というか,そういうものを抱いている。「こっちがいくら主張しても,通るわけないし,どうせ聞く耳なんか持っちゃいない」というような感じ。それは決して前向きなことではない。

OTR法案がもし強引に通されていたら,北アイルランドのひび割れはもっと決定的に大きくなっていただろう。

ベルテレさんの言うとおり,この問題はまだ決着はしていないので,今後も注目していく必要がある。が,それは,ベルテレさんのいうように,「被害者や遺族の心情を最優先に(which gives priority to the sensitivities of the victims and their families)」という形ではなく,「何が行なわれていたのか,その真相を明らかにすることを最優先に」すべき。英国の治安当局や情報部と武装組織とのつながり,武器や爆薬の流れ,そういったものもすべて含め。

もう1つ記事の引用。ガーディアン論説:
The dustbin of history
Leader
Thursday January 12, 2006
http://politics.guardian.co.uk/comment/story/0,9115,1684507,00.html
... Yet without some parity of this kind, it was inconceivable that the other parties would even look at a measure that inevitably involved turning something of a blind eye towards former terrorists, some of them murderers. As a result, the entire plan has foundered, victim partly of enduring mutual suspicions and partly of Sinn Fein's insistence on the uniqueness of its own victimhood.
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The bill's collapse is glumly indicative of the deepening collective failure in Northern Ireland. In the Commons yesterday Mr Hain said that, after the next report on IRA compliance from the international monitoring commission at the end of this month, he will restart talks with the political parties with the aim of restoring the Northern Ireland assembly, suspended since 2002. The Ulster secretary has our good wishes in that initiative, but optimists should not hold their breath. Recent indications from the Democratic Unionists contain no suggestion that they are willing to sit down in government any time soon, or even at all, with Sinn Fein. The death of the on-the-runs bill is a symptom of a society that seems in no hurry to breathe new life into the peace process.


ガーディアン論説はこの法案が廃案になったことを「ピース・プロセスに新たな生命を吹き込むために何ら急いでいないように見受けられる社会のあらわれである」として記事を結んでいるが,実際北アイルランドのアセンブリーの次回の選挙は,2007年5月に予定されている(BBC)。その時までにアセンブリーがサスペンドされている状態を何とかすることが本義という主張を,ガーディアンはしているのだと思うが,その問題は根本的に,DUPをどうするかってことだ(とガーディアンの人も引用部分で書いているのだが)。

なお,アセンブリーについて「2002年からずっとサスペンドされている」とあるが,サスペンドの発端は,先日,実は80年代からMI5のスパイとしてシン・フェインの上層部から情報を流していたデニス・ドナルドソンらが,「ストーモントのスパイ」として逮捕されたことだ。

アセンブリーの議席の推移は:
1998年(6月実施):UUPが28,SDLPが24,DUPが20,SFが18,アライアンスが6。
2003年(半年延期されて11月実施):DUPが30,UUPが27,SFが24,SDLPが18,アライアンスが6。(2003年の選挙のときの当ウェブログ記事1記事2記事3:この議席数の変化については,記事3のトピックがかなり重要だと思います。)

UUPとSDLPがグッドフライデー合意の推進者,SFは同合意を支持はしたがIRAの武装解除の問題でギリギリのプレイをした。DUPは合意には最初から断固反対。

つまり,1998年の合意から5年後の2003年,気づいてみれば北アイルランドの第一党は,合意に断固反対のDUPになってた,という次第。(DUPは2005年の英国下院の選挙でもNIで最大の議席数を獲得,また,ウェストミンスターでも4番目にでかい党になってしまった。)(DUPというのはユニオニスト政党ですが,もっと深い部分では極右。ただし今は国家レベルのことにはあまり絡んでこないから目立ちはしませんが。)

その「第一党」が「シン・フェインとのパワー・シェアリングだけは断固お断り」という態度を貫いている(そしてこの先もそうするであろう)ときに,どうするんだろう。。。その点については2月に(おそらく複数政党間での)交渉を行なうそうですが。

ガーディアンの別の記事(報道記事:わかりやすくまとめられています):
Amnesty for fugitive paramilitaries scrapped
Michael White and Angelique Chrisafis
Thursday January 12, 2006
http://www.guardian.co.uk/Northern_Ireland/Story/0,2763,1684348,00.html
Mr Hain coupled his decision to an attempt to kickstart the stalled devolution process by promising talks in February aimed at finding ways to revive the Stormont government ahead of elections to the Northern Ireland assembly scheduled for 2007.
posted by nofrills at 22:12| todays_news_from_uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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