2005年07月28日

IRAのステートメントが出される(らしい)直前の動きのまとめ。

「まとめ」というより単なる「メモ」。

まず,ブレア首相が言葉で懐柔(したような感じ)。それから,IRAの爆弾犯の仮釈放……

iragiveupexpec.png
※画像はGoogle News UKのキャプチャ。28日午後7時半ごろ(日本時間)。1)ブレアの「懐柔」
IRA are not al-Qaeda says Blair
Last Updated: Tuesday, 26 July, 2005, 15:23 GMT 16:23 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/4718223.stm

火曜日(26日)の定例記者会見で,ブレア首相は,「テロリズムは間違っている(wrong)」のだから,比較をするのは不快であり,「リパブリカニズムの政治的要求と,我々が現在直面している(we're facing now<ブレア的頻出フレーズ)テロリスト・イデオロギーの政治的要求とを比較することはできない」と述べた上で,「(しかし)IRAは3000人を殺そうとしたことはないはずだ(I don't think the IRA would ever have set about trying to kill 3,000 people)」と述べた。

ブレア(Blair)をおちょくる表現のひとつに,Blahというのがあるのだが(用例:Tony Blah),これまたひどいBlahですな。。。と普段なら流すところだけれど,今回は流さない。

ブレアは,このように述べることによって,「自爆とかする連中とIRAとは違う」という認識を自分が持っているということを,ユーフェミズムでアピールしている。

#ブレアの発言も十分に「暗号」だ。

英国はIRAを法的に「テロ組織」と認定(2000年テロリズム法など)している以上,「テロには1インチも譲らない」と英国政府のトップが語る場合,その「テロ」にはIRAも当然含まれる。

しかし,英国政府のトップが,現在「1インチも譲らない」と言っているのは,「3000人を殺すような,我々がこれまで知らなかったテロ」についてである。つまり,「3000人を殺さないIRAのテロと,3000人を殺すテロとは違う」のだから,というねじれたロジック。(これがねじれているということに気づかないほど,トニー・ブレアは馬鹿ではない。元は法廷弁護士だからね。)

で,こういう苦しい「数の比較」が為されるときは,何らかの必要があって為されるわけで,ではどのような必要があるのかというと,これはもう根拠はないけれども,素直に考えて,IRAに対する懐柔だろう。

トニー・ブレアはとにかく,北アイルランド和平プロセスを前進させたい。前進させなければならない。そういうことだ。

ブレアのこの発言について,北アイルランドのユニオニスト政党から極めてまっとうな反論が出ていることを,BBC記事は紹介している。
In response, Ulster Unionist Party leader Sir Reg Empey said he had warned Mr Blair against "creating double standards between terrorists".
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"There is no point in using the numbers killed to distinguish between terror groups as the prime minister seems to be implying," he said.
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"However, if Mr Blair wants to use a crude stratification process in order to establish a hierarchy of terror, he will find that the number of those murdered and maimed in Northern Ireland is greater."
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DUP MP Sammy Wilson said Mr Blair's comments were an "insult to every victim of terrorism".
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"Whether a terrorist sets out to murder one person or 100 people, they are a terrorist and no difference should be drawn," he said.

ただしこれらの,至極まっとうな反論も,ポリティカルなものである。(シニカルな言い方をしますが。)

しかし,和平推進の原動力となったUUPの党首が,和平のために「清濁併せ呑む」ではなく,こういう批判をするとは。。。(UUPはUUPで支持激減で危機的状況にある。)

なお,こういう記事を独立して出したBBCにも,それなりの意図はあるかもしれない。(ガーディアンにはこういう主旨の記事は出ていないようだ。)

2)爆弾犯を仮釈放
Shankill bomber freed from prison
Last Updated: Wednesday, 27 July, 2005, 20:26 GMT 21:26 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/4722893.stm
および
Release of Shankill bomber signals IRA statement of end of violence
Angelique Chrisafis, Ireland correspondent
Thursday July 28, 2005
http://politics.guardian.co.uk/northernirelandassembly/
story/0,9061,1537659,00.html


Shankill bomber というのは,1993年10月にベルファストのプロテスタント・エリア(それもかなり濃い主義主張のある人々の)であるShankill Roadのフィッシュ&チップス屋で爆弾を爆発させた犯人,ということ。この爆弾では子ども2人と老人2人を含む住民9人とボマー1人が死んだ。(→とても簡潔な年表事件時の現場の写真と,爆弾が置かれた店の主夫妻(爆死)の娘の語ったこと

IRAが本当に標的としたかったのは,このフィッシュ&チップス屋の上の階にあった,ロイヤリスト武装組織のオフィスだったとのことだ。なお,この爆弾は予告なしだった。

ちなみに,Shankill Roadに隣接するFalls Roadはカトリック・エリアで,英軍とリパブリカンとの戦闘が行なわれるなどしてきた場所。そんなこんなで,ShankillもFallsも,それぞれの側にとってシンボリックな意味を持つ。

閑話休題。

で,93年の爆弾テロの実行犯2人のうちの1人であるIRA活動家は(もうひとりは爆死),逮捕・起訴され有罪が確定して,終身刑9回の判決を下されていたが,グッドフライデー合意後の特赦で2000年に釈放となった。

しかし2005年6月,前月の総選挙後の組閣で北アイルランド担当大臣となったPeter Hainが,Shankill bomberはまたテロ活動を行なっていると判断したとして恩赦取り消し・再収監。

そのShankill bomberが,7月28日には再度仮釈放となったということである。

当然ロイヤリスト側は激怒。一方のリパブリカン側は,6月に再収監された際に,「彼は政治的人質にされている」としてデモを行なっていた。

要するに,この人物を釈放したり収監したりすれば,それだけ感情が煽られるということだ。

その人物をこのタイミングで保釈したことについて,北アイルランド省(=英国政府)はこう述べている:
The Northern Ireland Office said last night: "We can confirm Sean Kelly was granted temporary release by the secretary of state on the expectation of the forthcoming IRA statement."
*出典はガーディアン記事


つまり,「釈放してもテロ活動を行なうことはない」という判断がなされた。今日(金曜日)にも出されるというIRAのステートメントが出る前に。

というより,むしろ,これは取引だろう。

何が「テロには1インチも譲らない」ってことだろうか。

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■追記:
Google Newsのヘッドラインから何となくthe Sunの記事を見てみたら,英語があまりに簡単で,この内容とのアンバランスさにちょっと笑ってしまったのですが,犠牲者数の数字が出ていたので引用:
There have been 3,349 deaths linked to The Troubles, which started in 1969 and saw a terrifying bombing campaign on mainland Britain until the 1998 peace accord.
-- http://www.thesun.co.uk/article/0,,2-2005340549,00.html

IRAは一気に3000人は殺さなかったし,また3349人の死者のすべてがIRAからの攻撃/暴力で死んだわけではない。けれども,3349という数字を見たときに,トニー・ブレアのblah blah blahの意味のなさを感じない人は,多分あまりいないのではないかと思う。

→詳細なデータが見たい方は,CAINのデータベースへどうぞ。

なお,CAINのデータベースによれば,死者総数は3523。具体的な数字を少し引用しておこう。

英国の治安組織(軍と警察)によって殺された人,363人。アイルランドの治安組織によって殺された人,5人。ロイヤリスト武装組織によって殺された人,1020人。リパブリカン武装組織によって殺された人,2055人。不明の人,80人。

カトリックの死者,1523人。プロテスタントの死者,1285人。北アイルランドに住んでいない人(英軍兵士,警察官など)の死者,499人。ブリテンでの死者(リパブリカンによるテロなど),120人。北アイルランドでもブリテンでもない欧州のどこかでの死者(ジブラルタルとか),14人。アイルランド共和国(南)での死者,82人。

英国治安組織の死者,1111人。一般市民の死者,1857人。アイルランド治安組織の死者,10人。ロイヤリスト武装組織の死者,151人。リパブリカン武装組織の死者,394人。

英国治安組織によって殺された一般市民,192人。ロイヤリスト武装組織によって殺された一般市民,873人。リパブリカン武装組織によって殺された一般市民,737人。誰によって殺されたか不明の一般市民,55人。

なお,データは1969年7月14日から2001年12月31日までのもの。その後のロイヤリストの内紛(政治的対立というより,ギャング団の抗争のようなものだと思いますが)などでの死者はデータに入っていない。
posted by nofrills at 14:44| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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