2006年07月18日

バーベキューしてたら襲撃された――デリー(北アイルランド)

Man 'critical' after gang attack
http://news.bbc.co.uk/1/hi/northern_ireland/5186604.stm

デリー(ロンドンデリー)のWaterside areaのChapel Roadのある家の裏で、先週末、ある男性の送別会が開かれていた。まもなくアゼルバイジャンで教職に就くその男性を送り出すために、カトリックもプロテスタントも含む友人たち(その中にはイングランド人、ルーマニア人、ポーランド人もいた)が集まって、バーベキューをしていた。20人ほどが集まり、和気藹々と過ごしたあと、何人かが残ってゴミを燃やすなど後片付けをしていた。時間は午前3:40ごろ。

そこをthugsが襲撃した。3人の男性が暴行を受け、1人(29歳)は頭部に重傷を負い、ベルファストの大病院に搬送されたが重態、1人は顎を砕かれ、1人はあざだらけ。警察ではこの襲撃を殺人未遂事件として扱っている。

バーベキューをしていた人の1人は、襲撃された理由がまったくわからないと述べている。「連中は口々にセクタリアンな言葉を発していた。こちらはそんなことにはまったく関係がなく、ただバーベキューをしていただけだ。ぼこぼこにされた私の友人にしても、連中が実際にどういう人物かを知っていれば、セクタリアンなものには関係ない人物だってことはわかったはずだ。」(つまり、「リパブリカン活動家」ではなかった、ということ。)

……というのが、BBCが報じた事件の概要。

例によってBBC記事では、襲撃されたのがどの「宗派(セクト)」に属する人なのかは直接には書かれていないが、スラオさんでは、重態の29歳男性はカトリックであるとしている。(ただしその根拠はスラオさん記事の中で明確ではない。)スラオさんでこの記事を立てたクリス・ドネリーは、「今年はデリーではセクタリアン襲撃が激増している」と書いているが、コメント欄ではこの点についてちょっとした議論になっている。

また、クリスは「(自分はデリーにいるわけではないので)メディアの報道を通じてしか知ることができない。デリー在住の方からの情報をお待ちしています」ということを書いているが、それがなかなか来ない。

コメント欄ではしばらく「本当にセクタリアン襲撃なのか」を考察する書き込みが続く。事件発生が暑い夏の日曜の午前3:40とのことで、「真の問題はアルコールだ」といった指摘が出る。その「アルコールの問題」が、「典型的なIrish Sickness」だという話になって、「ユニオニスト/ロイヤリスト=Britishなのに、こういうときは都合よくIrish Sicknessですか、ははは」というような反応が出る。すると「Irishってのは人種のことじゃない、この島で生まれたり育ったりした人はみなIrishだ」という反応が出る。

「事件が起きるたびにいちいち記事立てるな」といった意見も出る(こういう記事が好きじゃないのかもね)が、別のコメントで「いや、この記事には意味がある、なぜならこの記事は情報がほしいという内容だから」と言われて、「なるほど」と納得して終わる。(あれ? ^^;)

そして、「片方の間違った行いをもう一方が『勝った』とばかりに高々と掲げるのは、気分が悪い」という1行レス(ほんとは2行)がついて、それに対しても「だがNews Letter(ユニオニスト)やDaily Ireland(ナショナリスト)の歪曲報道より、こういうとこであらかじめどちらということもなく議論するのがよくないか?」というレスがつけられる。

という次第で、「デリーからの情報」は、現時点ではコメント欄に2件しかなく、1件は「元在住」、現在デリーにいる人からのコメントが入っているのは、2ページ目に回って28件目である。

28件目の投稿の概要:
デリー在住です。今起きていることはアルコールとは無関係だし、spide*とも関係ないし、ガラの悪い団地とも関係ない。純然たる憎悪とセクタリアニズムとレイシズムです。証明しろと言われたらできないけれども、こういう襲撃をする連中は、この数ヶ月間、アイリッシュ・カトリックやイタリア人やポーランド人やバスク人や同性愛者といった人たちを襲撃してきたロイヤリストのthugsの集団と同じだと、私は確信しています。ロイヤリズムの指導者たちはソフトな面を示そうとしているけれども、こういった連中を何とかすることが先決。


* spide
北アイルランドの俗語で、ある特定のブランドの服を着たワーキングクラスの若い男性で(イングランドなどでのchavに相当)、パラミリタリーを支持している者のことを指す(このパラミリタリーは、ロイヤリストのUDAの場合もあれば、リパブリカンのIRAの場合もある)。語源は、1980年代の「タータン・ギャング」(スコットランド系=ロイヤリスト)の履いていたズボンがspidermanみたいだったことから、だそうです。(こういう語源、私は大好きです。)

あと、10番のコメント(Carnhillさんによる)。元デリー在住のこの人は:
WatersideのIrish Street(ロイヤリスト)とGobnascale(リパブリカン)が接する地帯では、ちょっとしたセクタリアン襲撃やギャングの衝突はよくあることだった。両者が接しているのはデリーで唯一ここだけで、しかもpeace line / wall**もない。しかし命に関わるほどの重傷で病院に担ぎ込まれる人が出るほどの襲撃はここのところ多くはない。自分自身Cityside(川の反対側)なので正確にはわからないけれども、あれだけ相互憎悪が強い地域で死人が出てないことのほうが不思議だ。


**peace line / wall
カトリックのエリアとプロテスタントのエリアを分ける壁。1970年ごろから建設されたが、最初のは確か、極右のプロテスタントに襲撃されるカトリックの街を守るためだった。

デリーではつい先日、14歳の女の子が30人のギャングに襲撃されるという事件が発生しているが、これもまた、Watersideでの出来事だった。

地図を見れば一目瞭然なのだけど、デリーは真ん中に大きな川が流れていて、東岸と西岸に二分されている。Watersideは東岸で、有名な昔の壁などがある旧市街を含むCitysideは西岸だ。このCitysideでも衝突は発生している。(同じ記事にちょこっとメモ程度に書いてある。)

Citysideについて、Carnhillさんは次のように説明している:
Citysideのthe Fountain(ロイ)とBishop Street(リパ)もまた、両者が直接接する地域だが、この何年かは石を投げたり火炎瓶を投げたり(これはどちら側からも)といった程度だった。これは、両者が高さ30フィートの壁で分けられている上に、境界には軍・警察のバラックがあるることによる。とはいえ、この18ヶ月は、Bishop Streetでは、夜に外出を楽しんだあとで徒歩で帰宅する人に対して深刻な襲撃が発生している。これらの襲撃はだいたいがFountain団地のロイヤリストの特定のギャング集団によるもので、そのために(歴史的城壁の)門は数週間前から毎晩閉められるようになった。
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トラブルの元は、Watersideのロイヤリスト内部の争いにあるのではないか。12〜18ヶ月前にある程度の数のロイヤリストがWatersideを追い出され、Fountainに引っ越さざるをえなくなった。しばらく前に、彼ら新参のロイヤリストは、peace wallを超えてナショナリストの地域にパイプ爆弾を投げ込んだ(「ファウンテンに来たぜ!」という告知のようなもの)。これで警察は、これら『よそ者』のロイヤリストがさらにトラブルを起こすだろうと暗にほのめかしていたし、襲撃多発についても十二分に把握していた。私の記憶が間違ってない限りは、彼らはUDAと結んでいるはずだ。


ロイヤリストの武装組織(テロ組織)であるUDAは、「クリーンな組織」として存在し続ける意を固めていて(つまり「解散しない」ってこと)、最近やたらと動きが目立つ。例えば、助成金を受け取ろうと努力しているとか、アイルランド共和国の首相との会談に、UDAの政治組織じゃなくUDAそのものの幹部が出席するなどしているけれども、内部では何かけっこう大変なことになっているようなので(幹部がクビになるなど)、ひょっとしたら過激派の分派という方向もありえなくはない。「ワーキングクラスの怒りと主張」の受け皿だったUDAが、ある意味でミドルクラス化していくと、泥沼の内紛になりかねない。ただでさえ、極右思想やらセクタリアン思想やら階級思想やらがごちゃごちゃなのだ。

スラオさんコメ欄25番では、「デリーのシティセンターのspide密度はベルファストなんかよりずっと高い。デリーは小さいから、ガラの悪い団地が徒歩10分圏内に複数ある。そのせいではないか」とあり、26番目(2ページ目)では「この件はspide+アルコール=大混乱、ってことだけど、問題はガラがいいとか悪いとかじゃない。今の一番汚い問題は、ミドルクラスの間で生じている。spideみたいにこれ見よがしにやってないからって、それだけキレイってわけじゃない」というレスがついている。

発言者それぞれにはっきりとしたスタンスがあるのが、スラオさんコメント欄の最大の特徴なんだけれども(ここはわかりづらいところで、誰がどのスタンスなのかを把握するには長い時間が必要)、それにしてもこんなにすごいコメント欄は久々だ。

また、このコメ欄では「Irishとは何か、Britishとは何か」論も続いているので、それも一読の価値あり。乱暴にまとめてしまうと、「Britishの人たちは、NIのユニオニストについて、都合のよいときはBritishと認識し、都合の悪いときはIrishというレッテルを貼っているのではないか」という議論。(というか言い争いかな、今のところ。)

このことは「北アイルランド」の難しさであり、それゆえに、「北」を「英国の一部」のままにしておく(ユニオニズム)のでも、「南北統一アイルランド」にする(ナショナリズム)でもなく、「北アイルランド/アルスターという独立国家を作る」という主張も存在はする。ただし「北アイルランド/アルスター国家」の主張の背後にある思想が何なのかを考えると(というかその主張の現場がどうなってるのかを知ると)、極めてマユツバな話なんだけどね。

なお、「北アイルランドにおけるレイシズム」(襲撃してるのは昔ながらの極右の系統)については、12th前夜のボンファイアのためにポーランド人の家を襲撃し、家具を強奪@デリーというのが最も近いニュース。今年6月には、NIでの世論調査で、「何らかの人種的偏見を抱いている」人が25%と、10年前の10%に比べて激増している、とBBCで報じられているが、それは「移民」自体が増加していることと無縁ではないだろう。

(北アイルランドはEUなので、域内の人の行き来は自由、つまりワーパミ不要なので、NIの産業は「労働力」を求めて東欧で求人している。From Latvia with love, the BBC, 22 May 2006では、「労働力」をNIに取られたラトヴィアがどうなっているかを報告している。)

■北アイルランドに関する記事のクリップ@はてブ:
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/Northern%20Ireland/
※このブログより、上記のはてブのほうが、ニュース読みとしては充実しています。
posted by nofrills at 07:18| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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