2004年04月19日

「アイルランド」

こんなときだからこそ,帝国主義の実験場としてのアイルランドを見る。

アイルランドには私は別に特段の興味を抱かずにいたので観光客誘致めいたメッセージ(「緑の〜」の類)やらは書店などでよく見るし,酒(アイルランドのスタウトやらエイルやら)はわりと親しんでいるものの,政治的にどうこうという点ではまったく知らんも同然。クロムウェルだの何だのは英国の歴史を一通り勉強したからもちろん知っているけれど,それ以上でもそれ以下でもない。つまり,特に「思い入れ」はない。すなわち,私はこれからシンフェインの思想の文章について書くけれど,その主義主張は私のものではない。

これを前提にお願いします。TOWARDS A PEACEFUL IRELANDという小論がネット上にある。アイルランド民族主義のサイトsaoirseに置かれている。

1990年の草稿が,2001年にアップデートされたものだとのこと。全文はsaoirseの"Documents"のコーナーで読めるが,ここではその冒頭の3パラグラフだけ,勝手に日本語化してみた。「勝手に」なのでその辺ご了解いただきたい。

何十年ものあいだ,アイルランドの人々は戦争と紛争,政治的混乱に苦しんできた。そのコストは高く,こんにちに至るまでにおよそ3500の人命が失われ,自由はなく,2世代の人々が異常な状態で大人になった。世界の状況が劇的に変化するなか,多くの人がどうして私たち自身の国に平和と安定と経済発展をもたらすことがこんなにも困難であるのかと問う。
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ほとんどの人はもうはっきりとわかっているだろうが,未解決のnational questionが私たちの問題の根本的原因なのである。普通であれば経済発展に使われる資源は,北でも南でも,政治的合意という見せかけのもとの抑圧に用いられている。ダブリンの政府(「南」すなわちアイルランドの政府)の協力を得た英国政府によって常に,北アイルランドの状況を軍事的手段で解決しようという努力がなされている。しかし長い目で見れば軍事的な解決は得策ではないということは,広く認識されている。武装しての活動に関わっているすべての当事者が,政治的解決が最終的には見つけられるであろうことを認めているとして公的な記録に載っている。
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こんにちに至るまで,さまざまな政治的解決方法が試みられ,そして失敗してきた。ダブリンの政府はまともな提案をする真剣な努力をしたことがないし,一方で英国政府は次から次へと失敗を繰り返してきた。紛争と不安定が続いてきた。いわゆる政治的解決で最も新しいものが,1998年のグッド・フライデイに署名されたストーモント合意だが,それもまた今ではまったくうまくいかないことが決定的である。ストーモント合意は英国の統治を確保し,26のカウンティ・ステイト(「南」のこと)の将来を安全なものとする試みである一方で,アイルランドの全国民(all the people of Ireland)の自決(自己決定)権を圧迫するであろう「制度化されたセクタリアニズム(institutionalized sectarianism)」を作り出すことにしか成功していない。


アイルランドという島はイングランド&ブリテンの侵略を受けたためにかなり複雑な歴史を持ち,構造も複雑である。最もはっきりと目に見える「複雑さ」が北アイルランドで,エールという島の一部でありながら国家としてはアイルランドではなく英国(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の一部となっており,それはエール=アイルランドから見れば,「分断」にほかならない。

それに異をとなえ,「ひとつのアイルランド」を主張するのがシン・フェイン(我ら自身)であるが,今の政党としてのシン・フェイン党はあくまで政党らしく,それなりにエッジを失っている。

saoirseは「アイルランド自由国」(今のアイルランド共和国)を「妥協の産物」であり「英国の傀儡」であると断定している。北を含めない「アイルランド」は完全なアイルランドではありえない,という考えであり,同時に,とりあえず形式は独立国家にしてガスがたまらないようにして,実際は旧宗主国に最も都合のよいシステムを作ったに過ぎない,という見解/主張であるのだろう。

それを彼らは「帝国主義」と呼ぶ。

saoirseの"Documents"には,Neo-colonial Ireland という大変に長い論文があり,それもまた非常に興味深い。

私はsaoirseの主義主張を全面的に支持するわけではないが(というより支持するもしないもない。よく知らないんだから),アイルランドのことはもっとよく知りたいと思っている。ロマンチックな味付けをほどこされた紀行文や,わかったようなわからないような「アイリッシュ魂」の解説ではなく,イエイツ,ジョイス,ベケット,ショーといったものでもなく,独立戦争の英雄の伝記映画でもないものとして,saoirseは興味深い。それだけである。
posted by nofrills at 01:17| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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