2005年03月21日

殺人事件の被害者家族,「操られているわけではない」

例の政治化された殺人事件について,具体的な事実がまとまった記述が20日のオブザーヴァー(ガーディアン日曜)に出ていました。

この20日の記事と,19日の記事を。McCartneys no patsies, says former IRA man
Henry McDonald, Ireland editor
Sunday March 20, 2005
The Observer
http://www.guardian.co.uk/Northern_Ireland/Story/0,2763,1441933,00.html

記事全体としては,被害者家族が声を上げることを支援してきた人物(元IRA活動家で現在はライター)は「シン・フェインを陥れようとしてやっているわけではない」と述べている,というもの。

というわけで,まずは,この記事にある「事件についての具体的な記述」の部分を。

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ロバート・マッカートニーさんは1月30日にベルファストのMagennis's Barの外で刺され,殴られた。犯行を行なったと考えられる12人程度の男性は,IRAのいわゆる第3部隊のバックボーンを形成していた。

事件のあったバーには当時72人いたが,そのうちの誰一人として警察に証言していない。72人の中にはシン・フェイン党の選挙候補者が3人いた。IRAが殺害を認めたわけではなかったが,IRAは,実況見分が始まる前にバーを片付けた(clean up)したこと,および目撃者を脅したことで非難されている。マッカートニー姉妹とロバートさんのパートナーは,事件を目撃した可能性のある人々に,警察で証言をと呼びかけている。
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続いて,この人物,アントニー・マッキンタイア(Anthony McIntyre)が語る事態の経緯。

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マッキンタイア氏の自宅は,シン・フェインへの支持が絶大なリパブリカンの地域,ウェスト・ベルファストのスプリングヒル地区にある。自宅で取材に応じたマッキンタイア氏は,自分はシン・フェインの副党首マーティン・マクギネスらによって不当に悪者扱いされていると語る。

「ロバート・マッカートニーが刺された翌朝,彼のおばさんから私に電話がありました。彼女とは親しくしていましてね。彼女は取り乱していて,甥が死んだと言いました。私はロバートの死んだ次の金曜日に追悼の席に参列しました。ご家族にお悔やみを申し上げたかったので。その後でロバートの家に行き,ご挨拶したのです。」

マッキンタイア氏は元IRAメンバー。メイズ刑務所で16年服役し,出所後は文筆家となり,妻のCarrie Twomeyと一緒に急進的リパブリカンのウェブサイトを運営している。【注:マッキンタイア氏の運営しているサイトはThe Blanketというサイトです。】

「次の火曜日には葬儀に参列しました。ロバートのおばさんやご家族とずっと一緒にいました。木曜日の晩,ご家族から電話がありました。ロバートの死はただ統計の数字が1つ増えて終わりではないのだと,話がしたいとのことでした。私の書いた記事を読んで,私ならこの事件についてフェアに扱えると思ったのだそうです。」

マッキンタイア氏は,ロバートさんの家族が英国内および英国外のメディアで事件に光を当てなければ,ロバートさんの事件は忘れられるだろうと語った。氏は次にオブザーヴァーと,ダブリンのサンデー紙に連絡を取った。

「サンデー紙も大きな記事を書き,姉妹のキャンペーンが大きなニュースになりました。それ以降はマッカートニーさんの家には行っていませんし,マッカートニーさんとも会っていません。電話連絡はしていますが,たいがいはジャーナリストとの連絡をつけているだけです。ですが現在はジャーナリストは直接彼女たちのことを知るようになったので,私からの連絡はそれほど頻繁ではなくなっています。」

先週,マーティン・マクギネスはRTEのラジオインタビューで,マッキンタイア氏をマッカートニー姉妹の背後にいる人物であると名指しした。

マッキンタイア氏は,自分は確かにシン・フェインの現在の政治戦略に反対であると認める。しかし彼は公に,リパブリカンが暴力へ戻ることには一切反対であると述べている。

マッキンタイア氏は,シン・フェイン内部に進歩的なブロックがあることを確信している。「善良できちんとしたリパブリカンの大多数がシン・フェインの中に今も留まっています。問題は,党指導部があまりに長く指導部の地位にいすぎること,そしてすべての個人の考えをコントロールしていることです。そういう状態なので,真実から離れてしまっているのです。リパブリカンにとってシン・フェインに代わる選択肢は,シン・フェイン内部から出てこなければならないでしょう。」

マッカートニー姉妹に支持を申し出た急進左派・急進リパブリカニズムの人物は,マッキンタイア氏だけではない。ベテランの公民権活動家でジャーナリストのイーモン・マッカン(Eamon McCann)は家族を応援するラリーで演説をした。各勢力の垣根を越えて政治家たちが姉妹らの大義への支持を表明している。

彼らすべてが,姉妹らにあまりに寄りすぎていると見えないように気を配っている。先週のブッシュとの会談までは,家族が出席した政治的なイベントは,ダブリンでのシン・フェインの年次党大会だけであった――出席はジェリー・アダムズの要請にこたえたものであった。

マッカートニー姉妹は,誰かに操られている人形なのではとの説を一笑に付している。

マッキンタイア氏はとりわけキャサリン・マッカートニーさんを賞賛している。キャサリンさんは高等教育機関の講師を勤めている。「キャサリンは私などよりずっとずっと戦略的で,私からのアドバイスなど必要とする人ではありません。姉妹が誰かに利用されている小娘に過ぎないなどとは,性差別が根にあるから言われることです」と彼は言う。

〈後略〉

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この記事の1日前,19日にガーディアンに掲載されたMurder victim's sisters return to more hostile climate in Belfastは,「姉妹が政治的に利用されているのでは」というスタンスを示すものです。

具体的には「どうして彼女たちだけがこんなに取り上げられているの」という疑問およびそれに基づく不信,さらにはシン・フェインによる「後ろで糸を引いてる人間がいる」との非難,それに対する姉妹側の反論,など。

概略――

ラジオ番組の「視聴者からの生電話」には,私たちの運動を破壊しようという陰謀だと激怒したリパブリカンからの声も寄せられている。マッカートニー姉妹は兄がIRAメンバーに殺されたことを「完全に政治問題」にしているのだ,という声など。

米国人のテレサ・マクシェーンさんは,9年前に私の夫がデリー(=ロンドンデリー)で軍の人員輸送車両に轢き殺されたときには米国政府は何もしなかったと憤りを隠さない。彼女もまた,マッカートニー姉妹は,反リパブリカンのクルセードの一部として「利用されている」のだと確信している。

今週末,姉妹とロバートさんのフィアンセはベルファストに戻る。しかしその空気は,彼女らが出発したときよりも,彼女たちへの反感が高まっている。ワシントンで何百というインタビューをおこない,大統領の前で話をしたにも関わらず,姉妹らの正義への道は遠い。ロバートさんを殺害した犯人は,今もまだ,自宅の近所の賭け屋に顔を出すなど自由に歩き回っている。

しかし家族の戦いはより厳しいものとなっている。リパブリカンは既に手袋を取っている(=決闘の前の合図)。マーティン・マクギネスとジェリー・アダムズは,シン・フェインにダメージを与えるために政治的機会が姉妹を操っているのだということを,公の場で示唆している。

リパブリカンが犠牲となっているという感覚は,2週間前のシン・フェイン党大会でティールームにいたある女性の怒りにも聞かれた。「私の夫はね,ロイヤリストに殺されたんですよ。あの人たちが他の人たちよりずっとたくさん取り上げられるなんて,一体何の根拠があってのことなの?」

マッカートニーさん家族は中傷作戦だとこれまでずっと不満を述べてきた。しかし,政敵がマッカートニー一家を利用しているとのシン・フェインの主張は,今回の殺人事件とその意味するものによって痛みと混乱にさらされているナショナリスト社会の人々のこころに,疑いの種を蒔くことを目しているように思われる。

マーティン・マクギネスが親切なアドバイスをしてくれた場合,もしベルファストのリパブリカン地域に住んでいるのであれば,じっくりと耳を傾けるのがよかろう。マッカートニー姉妹へ向けられたマクギネスの「よかれと思って」の言葉――政党政治には関わるなというアドバイスは,脅迫として解釈された。マクギネスはそんなことはないと述べたが,多くの人々は,これを,5月の選挙で手ごわい対立候補として彼女らが立つことを止めようとしているのだと見た。キャサリン・マッカートニーはその後,立候補をしないことに決めた。ポーラはカウンシルの議席に立候補するかもしれない。

マクギネスは,姉妹はグッドフライデー合意に反対するスヴェンガリ(=黒幕)――元IRAで投獄された経験があり,リパブリカンでありながらシン・フェインを批判する人物としては最も大きな存在であるアントニー・マッキンタイア――にひそかにアドバイスを受けているのだと主張した。
マッキンタイアはメイズ刑務所で18年の懲役刑に服したあと,北アイルランドで最もよく読まれている政治系サイトのthe Blanketに貢献している。マッキンタイアはマッカートニー姉妹のアドバイザーと名指しされたことを一蹴している。彼は殺人事件直後にウェブサイトのために姉妹にインタビューをおこない,通夜と葬儀に参列した。しかしアドバイスをしたことはないし,第一彼女らにはアドバイスなど必要なかったと述べている。

マッカートニー姉妹は,マッキンタイアあるいは他の誰かが糸を引いているとの説を一笑に付している。キャサリン・マッカートニーは政治学の講師で,女性を対象としてコミュニティ・アクティヴィストになる訓練をしている。彼女にはこの運動を展開する能力などあるわけがないという人がいることを,彼女は奇妙であるという。

ベルファストはいまだにマッチョで性差別的な場所なのだ,と彼女は言う。「私たちが女だからというだけで,能力などないと決め付ける。背後に誰かいるんだろうってね。」

マッカートニー姉妹にはPR担当者もフィクサーもいない。それがワシントンの政治家やメディアにショックを与え,フラストレーションを感じさせた。彼女らは自身の声明を自分たちの台所で,子どもたちやらお茶やらに囲まれながら,A4の用紙に書いた。

リパブリカンでありシン・フェイン支持者である彼女らは,党大会でアダムズやマクギネスと一緒に現れるようにした。

しかし党に対する姉妹のフラストレーションは増していった。事件の晩に現場のバーにシン・フェインの選挙候補者3人がいたことが明らかになり,ソリシター(事務弁護士:法廷には出ない法律家)に何も見なかったと語ったということが明らかになると,ポーラは「隠蔽工作の臭いがする」と述べた。

シン・フェインからアセンブリーに立候補していたコーラ・グルーガンは,何も見なかったと語っているが,バーでのケンカの1時間後にグルーガンの拾ったタクシーの運転手はある新聞に対し,「彼女はバーが大変なことになってグラスやらボトルやらが飛び交っていたと言っていた」と述べている。

ジェンマ・マッカートニーは,バーにいた多くの人々がおそらくはシン・フェインあるいはIRAのメンバーであり,目撃者がいないということ自体がおかしなことであると語っている。

シン・フェインは警察に非難の矛先を向け,党へのダメージを与えるために意図的に捜査を行なっていないのだとしている。

シン・フェインが言うには,主要容疑者が警察の聴取を受けようとしたが,追い返されたという。ある目撃者はバーの外で鉄の棒で殴った人物の名前を挙げている。もうひとりの目撃者はバーでのケンカに関わった人々の名を挙げ,さらに3人目の目撃者は容疑者を並べてくれればロバートさんを襲った人物を特定できると述べている,というのがシン・フェインの話である。アダムズ党首は名前が挙げられた人物に対してなぜ何も為されていないのかと問い,どうして容疑者特定の手続きが為されていないのかと言う。

北アイルランド警察のトップ,ヒュー・オルドは,これらの主張は政治的画策であると一蹴している。証言を申し出た目撃者はおらず,したがって捜査が進展しえないのだと彼は述べている。

〈警察についての記述を少々カット〉

これらの非難がマッカートニー一家にとってダメージとなるのか,あるいはシン・フェインにとってのなのかは,まだわからない。

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というわけで,姉妹は元々インテリで,しかもリパブリカン運動の経験もあり,訴えるべきポイントとかを押さえた戦略は教えられなくても考えられる人々である,というのがひとつ。

それに対する「女にできるわけがない」という声(があるということが記事から読み取れるのですが)は,てんで的外れ。

一方でシン・フェイン幹部による「政治的な画策」云々は,実際よくよく考えれば彼らの常套句でしかなく,nothing new,別にこのことだけについて言っているわけではない。

ただしこの事件がやたらとでっかくなっているので,SFの反論もでっかく響く。

それから,あとは私の推察ですが,この有能な姉妹が,普通誰もIRAに逆らわないような地域で声を上げたことが,タイミングがよかった(=銀行強盗などでIRAの組織犯罪が改めてクローズアップされていた)ために政治の上層部(ワシントン,ロンドン,ダブリン)で歓迎されて,今回のような「一大イベント」になったのではないか,と。。。

わからないのは,姉妹がこの件をどこまで政治的なものにしたかったのか,です。最初はそうでもなかったのかもしれませんが,政治的になるという結果を予測せずにここまでやったということは,あまり考えられない。

北アイルランド「問題」というのは,何が「問題」であるとするかによって考えも意見もてんでばらばらになるのですが,今ここで問題になっているのは「IRA問題」です。

そして北アイルランドの「問題」は,IRAだけでない。例えば,ロイヤリスト側のテロ組織の存在という問題もあれば,治安当局の人員のほとんどがプロテスタント系(=ロイヤリスト勢力の側)であるという問題もあり,これらはIRAが解体すれば解決するという問題ではない。

「ロバートを殺した人間に法の裁きを」という,犯罪被害者家族としての思いが,こんなにややこしい政治的な話になってしまったこと自体が「問題」。そしてひとりのロバート・マッカートニーのほかに,たくさんの死者が――ロイヤリストとリパブリカンの暴力の応酬(ほとんど報道されない)で殺された人や,英軍に殺された人などがいることが「問題」。
posted by nofrills at 01:00| todays_news_from_uk/northern_ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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